解説 お江戸の科学
火災から財産を護る
火災から財産を護る 頻繁に起こる江戸の火災対策として、町内の自身番小屋に火の見の設置を義務付けたり、火の用心見回り夜番の当番制の実施や、天水桶の常備、火災時に消火に参加しなかった者への罰則などが、町触れとして数多く出された。また、防災用に建物は、土壁で塗り込めた塗屋造りや、板葺きの屋根から瓦葺きの屋根にすることが奨励された。(当初は,瓦葺は町人には贅沢として禁止されていた。) 火災が真近に迫ったら、庶民には防御策はない。先ず、布団や衣類を運び出した。その中で商人たちは、火災から財産を護るための工夫をこらしている。 枠火の見 自身番の消防セット ■土蔵の目塗り 大きな商家などでは、財産を護るために、耐火性の強い土蔵を使った。火災が発生すると、蔵に火が入って財産が焼失することがないように、扉や窓を閉めて、隙間を練り土で目塗りをした。大店では、出入りの職人がいざという時のために、常に用心土が固まらないようにかき回して備えていた。 この噺「火事息子」でも、臥煙となった若旦那が駆けつけ、蔵の目塗りの手伝いをしている。素手で泥土を素早く塗り込めた。 大店によっては家屋内に漆喰で固めた蔵を造っている家もあった。
■穴蔵 商家によっては床下に穴を掘り、そこへ財産を投げ入れて火災から護るための「穴蔵」を造った。財産を投入し、蓋をして上から砂をかけ、さらに水をかけて防火する。目黒行人坂大火の絵巻には、焼け残った穴蔵が描かれている。落語「穴泥」で、師走の金策に困り果てた男が落ちたのも、この穴蔵である。