第六回
「さてと」
アンリがふり返った先には、アーエスのすがたがあった。
「君はぼくたちが家に送ろう」
「……いい」
アーエスは首を横にふった。
「どうせ……もう……わたしには……家なんかないから……ここにいる」
「ばか言わないの!」
ベルは強引にアーエスのうでを取る。
「いいから……放っておいて」
「そうもいかないよ」
アンリはアーエスのひたいに指でふれた。
「……うん。家の場所は分かった」
「!」
目を丸くするアーエス。
「ごめん。少しだけ、心を読んだ」
「ほら、行くわよ」
三人はそのまま、アーエスを連れて南街区へと向かった。
「ここが……アーエスの家?」
小さな家の前に立ったベルの顔はこわばった。
しぶしぶ、アーエスが案内した家は、南街区でも特にあれ果てた一画にある、せまく、今にもたおれそうなみすぼらしい小屋だったのだ。
「なるほど。ぼくらに見せたくない理由も分かる」
ショーンはうなずく。
「サクノス家の屋しきのトイレだってこれよりはマシな……ったあ!」
無神経なショーンの足を、ベルは思いきりふんづけた。
くずれかけたとびらをたたくと、少しだけ開いて、すき間からアーエスの父親が顔を見せる。
「何か?」
「おじょうさんを連れてきました」
アンリが告げると、アーエスの父親は頭をふった。
「……うちには、娘はひとりしかいない」
父親は少し体をずらし、部屋のおくでねむっている赤んぼうをしせんでしめした。
「ほら、あの子。あとは二人とも男の子だ」
「アーエスは、あなたのお子さんでしょう?」
アンリは銀髪の少女をうながし、父親の前に立たせる。
「……いや」
父親はしせんをそらした。
「見たこともない子だ。連れてかえってくれ」