第一回
「トリシア、スーは!?」
トリシアが診察室から出てくると、待合室の中をずっと落ち着かない様子で歩き回っていたプリアモンドがたずねた。
「うん。今は安定してるよ。峠は越したみたい」
トリシアはうなずく。
「よかった」
プリアモンドはようやく、ほっとした顔を見せる。
「危なかったんだからね。あとほんのちょーっとでも遅れてたら、わたしでも助けられなかったかも」
プリアモンドがスーを抱えて診療所に飛び込んできたのは、昼過ぎ。
村から王都までを、本当に半日で飛ばしてきたのだ。
「感謝しているよ、名医殿」
「ほめたって、なんにも出ないから」
体が冷え切っていた上に、スーは足をひどく痛めていた。
それでもなんとか一命を取りとめたのは、トリシアだけではなく、レンや、たまたま診療所に来ていたショーンたちの手助けがあったからだ。
トリシアがなんとか治療を終えた頃には、太陽は地平線の向こうに半分姿を隠しかけていた。
「とにかく、安心したよ」
プリアモンドは、待合室のソファーに腰を下ろす。
「少し寝ていいかな?」
「ちょ、ちょっと! そのソファー!」
目を丸くしたトリシアは、あわてて止めようとした。
だが。
バキッ!
プリアモンドが横になろうとした瞬間、ソファーの脚が折れ、プリアモンドはそのまま後ろに放り出された。
「ソファー、壊れかけてるって言おうとしたのに」
トリシアは、プリアモンドを起こそうとのばした手を引っ込めた。
床の上のプリアモンドは窓から差し込む赤い日ざしを浴びながら、スースーと寝息を立て始めていたのだ。
「……ま、いっか」
トリシアは毛布を持ってきて、そっとプリアモンドの体にかけた。
☆おしまい☆
…プリアモンド編、いかがでしたか?
次回リュシアン編、お楽しみに!