「見学かあ。いいよ」
アンリは意外と簡単に、騎士団見学を許可した。
騎士団長はアンリの友人だし、三兄弟はともかく、副団長のシャーミアンはしっかりとした人物。問題は起こらないだろうと思ったのだろう。
……もちろん、アンリの判断は甘かった。
* * *
翌日。
「ここは、かの有名な白天馬騎士団の本部である!」
中央広場を通り、西街区の白天馬騎士団本部前までやってきたところで、ショーンは咳ばらいをして、連れてきた『星見の塔』の生徒たちを振り返った。
「では、見学を始めるに当たって、まず基本的なことを教えてやろう。騎士とは何か!? 分かるか、そこの!?」
ショーンは偉そうな態度で、生徒のひとりを指さした。
「ええっと、戦う人?」
と、その生徒。
「ハズレ! 戦うだけなら誰にでもできる!」
ショーンは首を横に振り、別の生徒を指さす。
「鎧を着て、戦う人?」
「街の警備隊員だって、鎧を着ているだろうが!」
「馬に乗って、鎧を着て、戦う人?」
「馬に乗ってない時だってある!」
ここまでの答えは、すべてハズレだ。
「……もったいぶらないで……早く……正解を言えば」
アーエスがあくびをし、退屈そうな目をショーンに向ける。
「では、この賢ーい僕が教えてやろう!」
ショーンは胸を張った。
「騎士とは、王家によって騎士と認められた人間のことなのだ!」
「へえー」
生徒たち一同、感心したような表情を見せる。
みんながショーンに感心することなど、一年に一度あるかどうかのことだ。
もっとも。
「……そんなこと、知ってますわよ」
しぶしぶ参加しているキャットだけは、早くどこかに座ってお茶でも飲みたそうな顔である。
「これからこの僕! 名門サクノス家のショーン・サクノス・ド・レイバーンがお前たちを案内してやるので、しっかりとついてくるように」
ショーンは門をくぐると、まず中庭の右手にある長い建物へと向かう。
「ここは厩舎。騎士が乗る馬を世話する場所だ」
ショーンは説明し、中に入った。
騎士が乗る馬がずらりと並んでいる様子に、生徒たちは目を見張る。
これだけの数の馬を見ることなど、ほとんどないからだ。
「やあ、ヴィクトル殿」
ショーンは、白馬の背中を拭いてやっている老人に声をかけた。
「よう、坊主」
馬の世話係を何十年も続けている老人は、ショーンを小さな頃から知っている。
老人はショーンの頭をゴシゴシと手荒くなでる。
「少しは馬から落ちずに進めるようになったか?」
「しーっ! その話はしーっ!」
ショーンはあわてて唇に人差し指を当てた。
「ショーン先輩、落ちるんですか?」
エマが驚く。
「ショーン……馬にまで……バカに……されて……」
アーエスは目にハンカチを当てた。
「馬にまでとはなんだ、までとは! まるで他にも誰かに馬鹿にされてるみたいだろうが!」
「あたし、してるよ」
と、ベルが自分を指さす。
「……右に同じ」
もちろん、アーエスも。
「今まで、馬鹿にされていないと思っていたんですの?」
キャットまで、哀れみの視線をショーンに向けた。