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「まずは学校か……気が重い」
メイド姿のシャーミアンとともに、ショーンは学校へと向かった。
犯人たちに怪しまれないよう、娘が普段している通りに行動する計画なのだ。
「……なんだか、あなたは好きでやってるように見えるのだが?」
メイド服で後ろを歩くシャーミアンの楽しそうな顔を見て、ショーンは顔をしかめる。
「そ、そんなことはない。任務のため、非常に苦労してメイドになりきろうとしているのだぞ? いや、本当に大変だ」
声をひそめてそう弁解しながらも、シャーミアンの足はスキップしている。
「で、狙われた娘はどこの学校に?」
と、ショーン。
「アリエノール学園だ……ですわ」
シャーミアンは、メイドの口調を真似て言い直した。
「最も行きたくない学校のひとつだ」
アリエノール学園は、有名なお嬢様学校。
貴族の娘たちも通っているので、当然、ショーンの知り合いもいる。
「さあ、お嬢様、遅刻しますわよ」
グズグズするショーンの腕をつかみ、シャーミアンはなかば強引にアリエノール学園を目指した。
しばらくして、二人は大きな学校の校門へとたどり着いた。
「先生には事情を話してあります。犯人たちに偽者だと気づかれないよう、放課後まで学園にいていいそうですわ」
すっかりメイドになりきったシャーミアンは、校庭を横切りながら説明する。
「こ、この格好のまま?」
「もちろんですわ、お嬢様」
教室に入ると、最初の授業が始まる前に、担任の教師がクラスの一同に告げた。
「みなさん、ソフィアさんはお家の都合で今日はお休みです。その代わりに、別のお友だちが来ていますが、気にしないでくださいね」
横目でチラリと見ると、説明する先生の顔はこわばっていた。
「ねえ。あれって、サクノス家の?」
「あんな趣味があったなんて……」
「ちょっとショック」
クラスには、ショーンと顔見知りの子もいて、ひそひそ噂話を始める。
(これは任務のためであって、決してそういう趣味では!)
弁解したいが、作戦の関係上、みんなに詳しい事情を伝える訳にはいかない。
(こ、これも騎士になるための試練!)
ショーンは自分に言い聞かせ、空いている席に座った。
シャーミアンは教室の後ろに立って、いつ犯人たちが襲ってきてもいいように、油断なくあたりに視線を巡らせる。
「ええと、それでは教科書を……」
気まずい雰囲気の中、先生は授業を始めた。
そして、永遠とも思える時間が過ぎて。
「やっと戻れる!」
授業がすべて終わった瞬間、ショーンはシャーミアンの手を引っ張って教室を飛び出していた。
「お、待ちください、ショー……ではなくてお嬢様! そんなに急いだら、犯人たちが追いつけな……」
シャーミアンは止めようとするが、ショーンはよほど恥ずかしいのか、スカートをひるがえして走り続ける。スカートだと脚がスースーするが、気にしてはいられない。
(このあたりは、ベルもうろついているからな! あいつに見られたら、何を言われるか!?)
お腹を抱えて笑い転げるベルの姿が、ショーンの頭に浮かんだ。
(そうだ! 犯人たちが誘拐しやすそうな場所を通れば!)
ショーンは息を切らしながら、人通りの少ない路地へと向かう。
東街区でも比較的小さな商店が多い地区の裏通りは、薄暗く、誘拐にはうってつけだ。
(さあ、この場所なら人目につかないし、襲いやすいだろう! 来い、犯人ども!)
ショーンは足を止めて待った。
しかし。
誰も現れない。
ネズミや野良猫さえも。
「……簡単には罠にかかってくれないようですね、お嬢様」
あたりに気配がないことを確認し、シャーミアンはささやく。
「誰もいない時は、お嬢様はやめてくれ」
ショーンはうんざりした顔で頼んだ。