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「寝室も、娘さんの部屋を使ってもらいますからね、お嬢様」
ライ麦パンとチーズの簡単な夕食が終わると、シャーミアンはショーンの皿を片づけながら言った。
「本当の娘はどこに行ったのだ?」
食事を一緒にした商人とその妻に、ショーンは尋ねる。
「こっそりとこの屋敷から出て、今は騎士団本部で保護されています」
商人の妻が答える。
「……ひとつ聞くが、このまま犯人たちが襲ってこなかったら?」
「襲ってくるまで、何日でもこのままですわ」
と、シャーミアン。
「……頼むー、早く来てくれー!」
ショーンが頭を抱えたその時。
「お部屋の用意ができました」
本物のメイドがやってきて、ショーンとシャーミアンに告げた。
「うわっ! なんだこのヌイグルミ! かわいい!」
娘の部屋に入った瞬間、シャーミアンの目がキラキラと輝き始めた。
「このピンクのカーテン! クローゼットも前からこんなのが欲しかったんだ!」
「シャーミアン殿、はしゃがないように!」
ショーンはこめかみを押さえる。
「そ、そうでしたね、すみません」
シャーミアンは顔を赤らめ、イスを引っ張ってくる。
「お嬢様はもうお休みください。私はここで見張っています」
二人きりになっても、シャーミアンはまだメイドの口調。よほど気に入っているようである。
「……あのだな」
ショーンは頭を振ると、シャーミアンの手からイスを取り上げ、ベッドを指さした。
「女性に見張らせておいて、自分だけスヤスヤと休む騎士はいない。君がベッドで休むべきだ」
「しかし」
シャーミアンは声をひそめる。
「メイドがベッドでお嬢様がイスだと、犯人たちが怪しむかも?」
「ならば交代ということにしよう。最初はシャーミアン殿がベッド。で、真夜中になったら、僕と代わる」
これを聞いて、シャーミアンは目を細める。
「やはり、団長のご子息だな」
「?」
「騎士の中の騎士。君はいつの日か、きっとそうなる」
「早く寝ないと、夜中に起こさないぞ」
ショーンは照れくさそうにランプの明かりを消すと、毛布にくるまってイスに座った。
「……ショーン」
ベッドに入り込みながら、シャーミアンは声をかける。
「ちゃんと女の子の寝間着に着替えるんだぞ。それと寝る時もウィッグは外さないように」
「うう……これかあ」
ショーンは仕方なく、ソファーに置かれたピンクの寝間着に手を伸ばした。