7
しばらくして。
「身代金、持ってきました」
扉がノックされ、フードをかぶった背の高い男が小屋に入ってきた。
「人質は無事ですか?」
男は部屋を見渡し、誘拐犯たちに尋ねる。
「もちろんだ。可愛い子ちゃんも、いびきメイドも無事だ」
ヴォッグは二人を立たせる。
「だから、いびきなんてかいてない!」
またもや抗議するシャーミアン。
「お金はここです。二人を」
男は重そうな皮袋をドンと床に置いた。
「まず中身を調べるぜ」
誘拐犯のひとりが袋を縛っている紐を解き、口を開いて中をのぞき込む。
「……金貨だ! 間違えねえぜ、ヴォッグ!」
誘拐犯は笑顔で振り返った。
「やった! 俺たちゃ金持ちだ! 地道に悪事を続け、苦節三十三年! やっと努力が報われた!」
ヴォッグは思わずショーンたちから手を離し、袖で涙をぬぐう。
その瞬間。
「走れ、二人とも!」
身代金を持ってきた男が叫んだ。
「!」
シャーミアンは男の方に向かって走り、ちょっと遅れてショーンも続く。
「あ、待て!」
隙を突かれたヴォッグは二人を捕まえようとするが、もう遅い。
男は短剣を抜き、シャーミアンとショーンを縛っていた縄を切った。
「お前、誰だ!」
今さらだが、誘拐犯たちは武器を握って男を取り囲む。
「知らないのか?」
男はフードを脱いだ。
「この、プリアモンド・サクノスを?」
「げっ! サクノス家の三兄弟のひとり!」
誘拐犯たちは震え上がる。
(げっ! 兄上!)
ついでにショーンも震え上がった。
「ひとりじゃないんだな」
犯人たちの後ろの窓が開き、別のひとりが飛び込んできた。
「じゃーん、僕だよ」
三兄弟の三男、エティエンヌである。
「もう覚悟を決めるんだな」
最後にもうひとり。
プリアモンドの後ろに、黒い外套をまとった次男リュシアンが立って、矢をヴォッグに向けた。
「くっ! どうしてここが?」
ヴォッグは後ずさる。
「手紙に住所を書いたろ?」
呆れたようにプリアモンドが言った。
(どうして兄上たちが!? この作戦には関係ないはずなのに!?)
めまいを覚えてふらつくショーン。
「大丈夫か、娘?」
そんなショーンを優しく抱き上げたのはリュシアンだった。
一方。
「貴様ら、なんで!?」
シャーミアンはエティエンヌに詰め寄っていた。どうやらこの展開、シャーミアンにとっても意外だったようだ。
「あはは、実はさ」
エティエンヌはへらへらと笑う。
「うちの親父さん、シャーミアンちゃんのこと心配してさ。何かあった時のために、僕らずっと待機してたんだよね。で、そこに手紙が来た訳。女の子も無事で、ほんとによかったよ」
(やった! まだ僕だとバレていない!)
ホッとするショーン。
「……そうか。私はまだまだ団長に信頼されてないな」
シャーミアンは肩を落とした。
「違うって」
首を横に振ったエティエンヌは、シャーミアンに剣を手渡した。
「うちには女の子がいないから、親父さん、シャーミアンちゃんのこと本当の娘のように思ってるんだってば。可愛くて仕方ないんだよ」
「わた、私が、この私が可愛い?」
戸惑いの表情で自分を指さすシャーミアン。
「そう。……まあ、うちの親父さんにとってはだけど」
エティエンヌは頷く。
「……貴様ら、こいつらを捕らえるぞ! ひとりも逃すな!」
シャーミアンは剣をビュンと振ると、誘拐犯たちに飛びかかった。