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「この風景、好きなんだけどなあ。」
アンリは残念そうにつぶやいた。
「アンリ!」
腰に手を当ててアムレディアがにらむ。
「はいはい、分かったよ」
アンリは魔旋律をかけ直した。
今度は部屋の向こうに、青い空と青い海、そして白い砂浜が広がっている。
「さあ、これなら?」
「さすが、宮廷魔法使い殿」
アムレディアは満足そうに頷いた。
「これよ、これ!」
水着に着替えると、真っ先に海に駆けだしたのはトリシアだった。
「海を見るのは初めてでしょう!」
やや遅れて、キャスリーンが追いかける。
「そっちだって!」
トリシアは言い返すと、キラキラ輝く波間に飛び込んだ。
「みんな、水は冷たいから、まず体を慣らして。それに日焼け止めも」
アンリが注意するが、まともに聞いているのはレンだけ。あとは誰も聞いていない。
「……しょ、しょっぱい!」
海水をなめたトリシアは、顔をしかめた。
「海の水には塩が含まれている。だから、体も浮きやすいんだ。……って、本に書いてあった」
飛び込む前に準備運動をしながら、レンが説明する。
その横では。
「この僕こそ! 真夏の海がいっちばん似合う貴族だよ! まあ、海を見たのは、これが初めてだけどね!」
セドリックが白い歯を見せて、ポーズを取っている。
「自分の目を疑うねえ。これがあの狭い部屋の中なんてさ」
どこまで歩いても壁にぶつからないので、セルマは首をひねる。
「……セルマは海って何年振りだい?」
アンリはふと尋ねた。
「ええっと、たしか十六……って、よけいなお世話だよ!」
セルマはアンリの頭を小突く。
その場所から少し離れて。
「これは……売れる……かも……」
と、貝がら集めにいそしんでいるのは、もちろんアーエスである。
「レン先輩! どうですか、あたしのみ、ず、ぎ!?」
ベルは例によって、レンにしがみつこうと追いかける。