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その頃。
「お前、医者だろが! 早く手当しろって言ってんだよ!」
空き地では、手当をしているトリシアに向かって男がどなっていました。
その男は腕にぶつけたようでしたが、大した傷ではありません。
「少し待って。こっちの子が先なの」
トリシアの目の前には、頭にけがをした女の子が横たわっています。
「痛いんだよ! さっさとしろ!」
男はトリシアの肩をつかみます。
「……この子のけがの方がひどいのよ」
トリシアは女の子に聞こえないように、声をひそめますが、男はそんなことにはお構いなしです。
「俺のけがが軽いってんなら、先に診たっていいだろうが!」
男はトリシアを放しません。
と、そこに。
「君、おとなしく順番を待っていた方がいいよー」
セドリックが現れて、男の手を握りました。
「……言っておくけど、手を握ったのは、君が好きだからじゃないからね」
「邪魔すんじゃねえ!」
男はセドリックの手を振り払います。
「邪魔をしてるのは、僕じゃないよ」
セドリックは金髪をかき上げ、クルリと回ってから男を指さします。
「……君さ」