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「普通、ありえんぞ。この書き置きを見ると、おしゃべりフクロウは今月だけでも八回はここに盗みに入っている。それを今日まで気が付かないなんて」
おしゃべりフクロウ参上!
という書き置きが壁中に貼られている広間に立って、白天馬騎士団副団長シャーミアンは頭を振った。
シャーミアンたちが今、訪れているのはセドリック邸。そう、王都一間抜けな貴族は誰だと聞かれれば、みな真っ先に思い浮かべるあのセドリックの屋敷である。
「仕方ないさー。ここは一年に、一、二回しか使わない部屋で、美術品の収蔵庫代わりにしているんだからね」
巨大なタコの形をした置物に手をかけ、セドリックはふっと笑う。
何か無くなっているものがあって、盗みに入られたと気が付いたのではない。
壁に堂々と、しかも何枚も貼られている書き置きを見て、騎士団に連絡したのだ。
「しかし、さすがは怪盗おしゃべりフクロウだよ。この僕の素晴らしい美術コレクションを狙うなんて」
「……おしゃべりフクロウは、悪事を止めたんじゃなかったのか?」
眉をひそめたのはリュシアン。
「ここに入るの、悪事のうちに入らないって思ってんじゃないのかなー?」
頭の後ろで手を組んで、適当に答えたのはエティエンヌである。
「で、その素晴らしい美術コレクションの中で盗まれたものは?」
シャーミアンはメモを取りながら、皮肉を込めて尋ねた。
「ええっと? ……さあ?」
この部屋にはいろいろな美術品??と、セドリックだけが思っているもの??があるが、あまりに品数が多すぎて何がなくなったのか、見当もつかないのだ。
「盗まれた数は全部で?」
「さあ?」
「一番高価なものは?」
「さあ?」
「では、一番大きなものは?」
「さあ?」
「一番大切にしていたものは?」
「さあ?」
「真面目に答える気があるのか?」
「さあ?」
「…………」
シャーミアンはセドリックの胸ぐらをつかんだ。
「ぐっ!」
顔から血の気が失せるセドリック。
「盗まれたものを調べて! 今後はちゃんと、鍵を閉めて盗まれないようにしておけ! いいな!」
シャーミアンはそう怒鳴ると手を放し、きびすを返して広間から出ていく。
「リュシアン! 今夜から西街区の見回りを増やせ! あのコソ泥、今度こそ必ず捕まえてやる!」
「やれやれ」
「八つ当たりだね」
リュシアンとエティエンヌはため息をついて、副騎士団長の後を追った。
残されたセドリックは腕組みをして考え込む。
「うむむ。確かにこれは何とかしないといけないね。僕の華麗なるコレクションを??」
セドリックは一回転して髪をかき上げた。
「自分の手で守るために!」
そして、十日が経って。