TOP > コラム > 生徒ファーストで社会に開かれた中学・高校の「実学」改革へ~ 塩川達大

塩川達大

第3回・同質性組織からの脱却

同質性と多様性

大学は新年度を迎え、新入生も新たな生活が本格化するシーズンを迎えております。
新入生の皆さん、大学入学者選抜を無事終了しての今の生活おめでとうございます。皆さんの頑張り、そして今後の教育研究活動の充実にエールをお送りします。

さて、今回は、中学校から高校、そして大学へという入試による進路選択の過程での同質性と多様性について考えてみたいと思います。

前回は、「ごちゃまぜの学び」を提案しましたが、その中では、「中学校から高等学校、さらには大学等の高等教育機関に進学するにつれて、学校という世界はともするとごちゃまぜの対極、高い同質性がある場となりやすい傾向が(未だに)あると思います。例えば、地域の市立中学校では障害のある生徒も同じ学校で学んでいたのに、入試という5教科の輪切りを経て高校進学するとそうした友達とは疎遠になるどころか、障害がある同世代の人の生活がイメージしづらくなる。このような乖離が年を重ねるとともに大きくなり、遠い世界の人のような感覚が増していく。こんな経験を持っている方は若い人も含めて少なくないと思われます。」ということを述べました。

実社会とは反比例するように、中学校、高校、大学と進路選択をする過程で同質性が高くなる傾向がある高校や大学での学びの姿はどうあるべきか。言い換えるとモノカルチャーになりやすい学校風土と、多様性・ダイバーシティとのバランスはどうあるべきなのか、頭をよぎることがしばしばあります。学校の進路選択で最終段階といってもよい大学の世界では、いわゆる「リケジョ」をどう増やすかといったテーマから、国際性をどう高めるかといったテーマ、ひいてはダイバーシティをどう進めていくのかが議論になり、そして取組が進められています。ではそもそもなぜ、多様性が教育や研究において重要なのでしょうか。当たり前と思われることですが少しばかりクリティカルに考えてみようという私の悩みについて、ご一緒に考えていただけるとありがたいです。

教える「効率」と学ぶ「効果」

学校の習熟度別学習だけでなく、予備校、高等学校などではコース別で「同質的な集団」を対象とする教育が行われている場合が少なくありません。授業が進めやすいといった先生の意見、さらには生徒等の学ぶ側としても理解しやすい、学習が効率的であるという声も聞かれます。この点、首肯しつつ、首をかしげる面もあるのが正直な思いです。受験に必要な知識技能を習得するという観点からとらえると確かに効率的なのでしょう。しかしながら、多様化していく実社会、かつ人生百年時代の自らの人生を豊かにするというための学びの観点からはどうでしょうか。言い換えますと、受験の視点では効率的なのでしょうが、人生を生きていく資質能力の育成の視点では効果的なのでしょうか。

現在、多様性の意義にかかる様々な提言や研究・分析もなされております。男性ばかりの研究グループよりも男女混成の場合、一層の研究成果が挙げられているとか、企業組織でも国際性も含めて多様な組織文化だと、イノベーションを創出する傾向が見られる、といった見解も見られます。他方、多様性の負の面として、組織への帰属意識が希薄になる、摩擦が多くなる、ワンチーム感が醸成されづらいといった見解も見受けられます。これらについて、私はどちらもそうだろうと思います。教えるサプライサイドの視点はさておいて、学ぶ側の視点に立った場合には、短期的な効率と長期的な効果のバランスをどうとっていくかが大事。それが先ほどの問いに対する私なりの答えになります。

学級や部活動といった学校の集団を例に考えますと、やはりなんらかの同質性があるほうが帰属意識が高くなります。ひいては、学級対抗や高校三年間での部活動の成果といった(人生百年と比較すると)短期的な成果を上げることにつながり得ると思います。その成果を否定するものでは何らありません。ですが、グローバル・ローカルの様々なつながりが普遍的同時的に進められているのが今の世界であり、加速するのが未来です。こうした実社会から逆算した学びとしては、バランスの程度はありますが、多様性を踏まえない限りは効果的なものにはなりにくい、そう考えるのは自然かと思います。

個別最適な学びと協働的な学び

国の中央教育審議会では「『令和の日本型学校教育』の構築を目指して~全ての子供たちの可能性を引き出す、個別最適な学びと、協働的な学びの実現~(答申)」を令和3年1月に取りまとめています。この答申が今の教育課程の在り方を示しています。

詳細は文部科学省のホームページをご覧いただければと思いますが、①児童生徒が自己調整しながら学習を進めていくことができるような個別最適な学びと、②子供同士、あるいは地域をはじめ多様な他者と協働し、様々な社会的な変化を乗り越え、持続可能な社会の創り手となることができるよう、必要な資質・能力を育成する「協働的な学び」を組み合わせて実現していくことが授業づくりでは重要とされております。

この点において、義務教育よりも入学者選抜が導入されている高校や大学においては、多様性が小さくなる傾向があると考えられますので、義務教育以上に意図的に、②の視点も大事にした学びを実現することが適切なバランスにつながると言ってもよいかもしれません。

学校自前主義・同質性組織からの脱却、そうした学校教育へ

こうした発想に立つと、高校における地域社会とつながった学びの推進、あるいは普通科と職業系学科との連携、さらには高大接続。大学では産官学連携でのカリキュラム作りから研究の推進、さらには国際化も含めてダイバーシティを推進した学校改革が進められるという現在の傾向は、生徒や学生ファーストの学びの充実という観点からは、当然求められている改善方策のように思えます。自らの人生を主体的に良いものにしていくキャリア自律の観点からは、多様性を大事にした学びこそが効果的であり、同質性が強くなりがちな学校における教育としては、より一層その点に留意していく必要があると考えます。先生方をはじめとする大人においてはそうした教育環境の形成、生徒・学生の皆さんにおいては、自分の人生をどうより良いものにして構築するかというキャリアオーナーシップの視点での主体的な学びの場の形成、この双方が大事にされる往還が細やかに行われる学校教育が進められると素敵だなと思います。

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塩川達大(しおかわ たつひろ)
塩川達大

京都大学経済学部卒業、ロンドン大学ユニバーシティカレッジロンドン修士(公共政策)

1996年文部省(当時)入省、文部科学省、岐阜県教育委員会、内閣官房(地方創生担当)等の勤務を経て、2017年スポーツ庁学校体育室長(部活動改革担当)、2019年初等中等教育局参事官(高等学校担当)、2021年高等教育局専門教育課長、2023年7月国立大学法人金沢大学理事・副学長

2024年8月より文化庁 文化資源活用課長