腕組みをしたベルがショーンにたずねる。
「診療所に寄付をするのはどうだろう? 例えば、ほんの金貨千枚ほどでも?」
と、ショーン。
「そうねえ。たかだか金貨千枚ぐらいだったら、トリシアもえんりょしないんじゃない?」
「これだから……おバカな……金持ち……どもは……。」
二人の会話に、ため息をつくアーエス。
「何よ、アーエス?」
ベルはふり返る。
「文句でもあるわけ?」
「ベルやショーンが……寄付するの……自分でかせいだ……お金じゃなくて……親のお金……。それをもらっても……トリシアは……きっと……喜ばない。」
「……本当に?」
うたがいの目で見るベル。
「……たぶん。」
アーエスも、だんだん自信がなさそうな顔になる。
「ということは、自分でかせいだお金なら、いいわけだな。」
腕組みをし、ニヤリとするショーン。
「はあ? かせぐ? ショーンが?」
「無能な……乙女(おとめ)少年が?」
ベルとアーエスは思いっきり、バカにしたような表情をうかべた。
「乙女少年って言うな! ていうか、提案がある。」
ショーンは、一冊の本をドンッと教卓の上に置いた。
「さあ、みんな! これを見たまえ!」
「って、何?」
「魔道書(まどうしょ)?」
「アンリ先生のところから持ちだしてきたの?」
ショーンのまわりに集まる生徒のみんな。
「ええっと、『魔法秘薬学(まほうひやくがく)?その基本理論と製作法』第五十三巻……何よ、これ?」
本のタイトルを見て、ベルはまゆをひそめる。
「ぼくほどかしこくない庶民の君らには分からないかも知れないが、この本にはさまざまな魔法の薬の作り方が書いてあるのだ。」
ショーンはむねを張った。
「そんなことは分かってるわよ! あたしが聞いてるのは、それがどうお金もうけになるかってこと!」
つくえをバンッと手でたたいて、声をあらげるベル。
「ふふん、まあ、聞きたまえ。」
ショーンは右手の人差し指をベルの鼻先でふると、声をひそめた。
「もしも、この本に出ている魔法の薬を作れば……。」
「…………作れば?」
身を乗りだすみんな。
「高く売れるとは思わないか?」
ショーンはそう言うと、一同の顔を見わたす。
ほ?っという感嘆の声が、生徒たちの間から上がる。
めったにないことだが、ショーンの提案は、みんなをなっとくさせたようだ。