「アーエス。」
身動きの取れないショーンは、助けを求める。
「何でもいうこと聞くから、アンリどのか、レンどのを連れてきてくれないか?」
「……何……でも?」
と、すかさず聞きかえすアーエス。
「いや、何でもっていうか……できることなら?」
ショーンはちょっと考えなおす。
「……帰る。」
「わ?っ! 聞く! 何でも聞く!」
「……そうじ当番……一年間……代わりに……やってくれる?」
「やります!」
「宿題も……代わりに……一年間……。」
「やります、やります! やりますから!」
「……やった。」
ゆっくりとイスから立ちあがるアーエス。
「なるべく急いでくれ?!」
実習室を出てゆくアーエスの背中に向かって、ショーンは悲鳴に近い声をかける。
そして。
「あははははははははははははっ!」
実習室に入ってきたトリシアは、ベルにせまられているショーンを見ると、おなかをかかえて転げまわった。
「ショーン、ほれ薬を使ったね?」
こめかみをおさえるアンリ。
「い、いや、これはそうではなくって……って、アーエス!」
ショーンは、とびらのところに立っているアーエスをにらんだ。
「だ、だれがこんなにたくさん人をよんで来いって言った?っ!」
アンリか、レン。
どちらかをよぶようにショーンは言ったはずなのだが、二人の他に、トリシア、キャスリーン、それにアムレディア王女までがやってきて、ショーンをあきれた表情で見下ろしているのだ。
「……たまたま……みんな一緒に『三本足のアライグマ』亭(てい)にいたから。」
アーエスはかたをすくめた。
「それにしても! ダメ医者や、まともなほうの王女様までよぶことないだろ!」
「……今の発言、一生わすれませんよ。」
「わたしも。」
まともじゃないほうの王女であるキャスリーンと、トリシアがにらむ。
「見るにたえない光景ですね。」
アムレディアはため息をついた。
「レン?」
「はい。」
レンはベルのそばに行くと、指を彼女のひたいに当てて魔旋律(ませんりつ)を唱えた。
「フォーギル・シェン。」
とたんに、ベルのひとみがいつものキツい感じにもどる。
「は、はなれなさいよね!」
ドンッとショーンをつき飛ばし、ベルは冷やあせをぬぐった。
「ふ?、危機一髪だったわ!」
「それはこっちのセリフだ!」
立ちあがりながら、ショーンは上着のよごれをはたく。
「な、何よ! このあたしがキスをしそうになったのよ! 喜ぶのが当然でしょ!」
こしに手を当ててまゆをつり上げるベル。
「だれが喜ぶかああああっ!」
「まったく、レン先輩の前でなんてことしてくれたのよ! このぼんくら貴族の乙女少年!」
「ぼくのせいか!? ぼくのせいなのか!?」
「そもそも、トリシアのためにみょうな計画を立てたのはあなたでしょ!」
「へ? あたしのため?」
トリシアは自分を指差した。