第二回
(……カバン、今さら取りに行けない。)
ろうかを歩きながら、ベルは思った。
ベルの母は、実は人間ではない。
海にすむ妖精(ようせい)、ローンである。
ベルの父は若いころ、そうなんしたところを美しいローンに救われて、こいに落ちたのだ。
ローンは美しい妖精だが、アザラシに変身するのうりょくを持つ。
そのために、母のことをアザラシのかいぶつ、とかげぐちをたたく人間は少なくなかった。
そして、その子どもであるベルに対しても、同じようにへんけんの目は向けられていたのである。
(あたしは人間よ。アザラシじゃない。)
ベルは何度も自分に言いきかせる。
(あたしは……人間。)
やがて、
こうしゃの出口が見えてくると、友人たちの声が聞こえてきた。
いっしょに帰るためにベルが待たせていた、取りまきの女の子たちだ。
ベルは少し歩調を速める。
しかし。
「ベル様、まだかしら?」
ベルがそばまで来ていることに気がついていないのか、女の子のひとりがつぶやいた。
「またいのこり学習なのではありませんか?」
と、また別の女の子。
「あれだけ成績が悪くて…。」
「……そうですわね。」
女の子たちは声を低くする。