前編
「たかが盗みで、小さな子供を死罪に?」
思わずつぶやいた若い巡礼は、余計な発言はつつしめと言うように、隣を歩く細身の巡礼に脇を小突かれた。
レンとトリシアを乗せた馬車はそのまま、巡礼の列とともに丘の上のカー・レドラル城へと向かう。
空は、次第に黒い雲におおわれつつあった。
遠くでかすかに雷の音がしているのを、レンの耳はとらえる。
「……どう?」
トリシアが、レンにささやく。
「もう少し」
レンは先ほどから、拾った石を使って縄を切ろうとしていた。
幸い、修道士たちは天気を気にして、レンたちのほうを見ていない。
縄さえ切れれば、逃げだす機会はありそうだ。
やがて、大粒の雨が、ポツリポツリと頬をぬらし始める。
「……やった」
手首まで少し切ってしまったが、ようやく縄が切れた。
レンは自由になった手で、トリシアや他の子供たちの縄を解いてゆく。
そして、馬車が教団の城門前でいったん止まった、その時。
「みんな、逃げろ!」
レンはそう叫ぶと同時に、目つきの悪い修道士を馬車からつき落とした。
「と、捕らえろ!」
あわてる修道士と巡礼たちの間をすり抜け、クモの子を散らすように逃げ出す子供たち。
レンは御者台に飛び移ると、手綱を握ってデタラメに馬車を走らせる。
ダダダダダッ!
「ひっ!」
「うわああっ!」
馬車をよけようとして衣のすそを踏んだり、馬に蹴られたりして、巡礼たちがひっくり返った。
「あはははは! かっこ悪~い!」
荷台の上のトリシアが大笑いする。
しかし。
「小僧ども!」
浅黒い修道士が馬車に飛びつき、レンの首根っこをつかんだ。
「レンを放せ!」
その腕に、ガブリと噛みつくトリシア。
「!」
浅黒い修道士がこぶしを振り上げ、トリシアを殴ろうとしたその瞬間。
ばっ!
先ほど質問した若い巡礼が、修道士に体当たりをかけて突き飛ばした。
もうひとりの細身の巡礼が、浅黒い修道士のみぞおちに杖を打ち込んで気絶させる。
「貴様ら! 我が教団のものではないな!」
二人の巡礼に向かって怒鳴る、目つきの悪い修道士。
「当たり前だ。それほど人間は腐っていない」
細身の巡礼はフードを取った。
一見すると、黒髪の少年だが……。
「へ?」
レンはこの少年の手に気がついた。
細く白い指。
男の子にしては、ずいぶんと手が小さい。
「……女の子?」
「相変わらず、余計なことに首を突っ込むやつだな、君は」
大人びた緑色の瞳をした少女は、もうひとりの若い巡礼を見る。
「自然に体が動いてたんだよ」
頭巾を脱ぎ捨てたこちらの巡礼は、やや幼い顔つきの金髪の少年。
どちらも、十二、三歳といったところだろう。
「あの人……」
金髪の少年を見つめるトリシアは、ぼお~っとした表情だ。
「ええい! この連中も捕らえろ!」
巡礼たちは少年と少女を取り囲んだ。