第二回
「きゃあああああああああっ!」
舞踏会場の方から、甲高い声が聞こえた。
「悲鳴、ですね」
と、眉をひそめるフィリイ。
「行くぞ」
フィリイの頬から手を離したリュシアンは、舞踏会場へと向かった。
リュシアンとフィリイが会場の中心に近づくと、誰かの怒鳴り声が聞こえてきた。
「な、な、な、な、な、何があったんでしょう?」
フィリイがリュシアンにしがみつく。
「落ち着け」
庭木の陰から様子をうかがうリュシアン。先ほどまで華やかなパーティが続いていた舞踏会場では、覆面をした十名ほどの男たちがおびえた貴族たちを囲んでいた。
「……ちっ」
男たちが武器を手にしているのを見て、リュシアンは腰に手をやったが、そこにはいつも身につけている剣はない。会場への武器の持ち込みは、禁止だったのだ。
「リュシアンさん、パーティだからって浮かれて、武器、みーんな馬車に置いてきちゃいましたもんねえ」
と、フィリイがあきれたように首を振る。
「誰が浮かれた、誰が!」
小声ながらも、リュシアンは思わず突っ込む。
一方。
「こいつだ! 間違えねえ!」
覆面の男たちは、貴族たちの中からアナベスを見つけていた。
「やめて!」
アナベスは抵抗したが、引っぱり出されて芝生の上に崩れ落ちる。
「な、なんてことを」
「ひどい」
貴族たちはつぶやいたが、ギロリとにらまれるとすくみ上がって黙り込んだ。
「……隙を見て、一気に倒す」
リュシアンはフィリイに告げると、大人しくしているように手で合図する。
犯人たちのひとりから武器を奪えば、十分に勝てると判断したのだ。
しかし。
「はいですー!」
フィリイはどこかから棒切れを拾ってきて、やる気満々で構えた。
「……いや、待て。お前は関係ない。下がっていろ」
リュシアンは、どやしつけたくなるのを我慢して命じる。
「えー、わたしも手伝いますよー」
「邪魔だ」
「そんなことありませんってー。こうやって、あいつらをガーンって……」
「お、おいっ!」
ガーン!
フィリイが適当に振り回した棒が、リュシアンの後頭部に見事に命中。
「……きさ……ま」
リュシアンは気を失って、芝生の上に崩れ落ちた。