第二回
* * *
犯人たちは人通りが多く、見回りの騎士たちもいる街の中心には、向かうはずがない。
目指すとすれば王都の外だが、すでに街門から出てしまっているとすると、時間が経ちすぎているので追跡するのは難しい。
もっとも、それは人間の場合。
「……半吸血鬼は、変身できるんだったな?」
街門に向けて馬を飛ばしながら、リュシアンは後ろのフィリイに尋ねた。
「はーい。……あ、でもレパートリーはそんな多くないんですよー。大きいコウモリとか、小さいコウモリとか、中くらいのコウモリとか……」
フィリイは指を折って数える。
「みんなコウモリだ!」
リュシアンは頭痛を覚えつつも、フィリイに命じた。
「屋敷からある程度離れたら、やつらは怪しまれないように馬車の速度を落とすはずだ。お前はコウモリになって、上空から大型の馬車を探せ。あれだけの人数を乗せられる馬車は、王都でもそう多くはない。窓に幕を下ろし、中がのぞけなくなっている馬車だぞ」
「はーい!」
フィリイは張り切る。
「いきまーす! もー可愛いだけの看板娘とは呼ばせませんー! 初公開! フィリイちゃんの超ー変身ー!」
「…………」
誰も看板娘だなんて思ってない、と突っ込みそうになるのを、リュシアンはグッとこらえた。
ポン!
煙が上がるとともに、服がバサリとリュシアンの背中に落ち、一匹のコウモリが現れてリュシアンの肩に止まった。
「服はなくさないでくださいねー。変身を解いたあとに着るんですからー」
コウモリはリュシアンに向かってウインクする。
「服ごと変身できないのか? ショーンの悪友の小娘はできるぞ?」
リュシアンは心底、嫌そうな顔でフィリイの服を集める。
「無理ですー」
コウモリは小さな頭を振った。
「早く行け!」
リュシアンはコウモリをむんずとつかむと、夜空の月に叩きつけるように放り投げた。
少しして。
「発見ですー! ついてきてくださーい!」
街門で待つリュシアンのところに、フィリイが戻ってきた。
「よくやった!」
リュシアンはコウモリ姿のフィリイに、服をバサッと投げつける。
「ほら、さっさと着ろ」
「……見ないでくださいね、見たい気持ちは分かりますけど」
コウモリは服をつかみ、木陰に移動した。
「そのまま串焼きにしてやろうか?」
リュシアンは半分本気でたずねる。
「……はーい、お着替え、ほとんど完了ですー」
フィリイは再び、リュシアンの後ろに乗った。