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少しして。
「こ、これは……」
城のまわりを一周して戻ってきたレンは、両ひざに手を置き、ゼイゼイ言いながらあたりを見渡した。
「も、ダメ」
「……言葉も……ない……」
「な、なぜ王女である私がこんなことを?」
座り込んでいるのは、ベルやアーエス、キャットを始めとする女の子たち。
「い、生きてるか?」
「正直、分からない」
「……かろうじて」
男の子たちも全員、芝生の上にひっくり返り、ショーンに至っては白目をむいている。
平気な様子で立っているのは、最初にゴールしたアンリだけだ。
「こ、これはまずいな」
まさか、これほどとは思っていなかったのか、アンリの顔からさっきまでの笑みは消えていた。
* * *
翌日。
「という訳で、今日は運動会だ」
アンリは城の中庭で、生徒たちを前に宣言した。
「どういう訳よ!」
毛糸の帽子を深々とかぶったベルが抗議する。
「誰かさんが……運動音痴な……おかげで……こっちまで……迷惑」
着膨れでまん丸になったアーエスは、白い目でショーンを見た。
「服が汚れちゃうよー」
「そういうことは、夏か秋にしてくれれば……」
「そうよねえ、こんなに寒くなってからやらなくても」
「あたし、運動嫌ーい」
女の子のほとんどから、いきなりの運動会は評判がよくない。
一方。
「やった!」
「勝つ! 絶対に勝つ!」
「俺たち、ふだん目立たない分、今日こそ目立とうぜ!」
勉強が苦手な男子たちが、やっと出番が来たというように、円陣を組んで気合いを入れた。
だが。
そこに現れたのが、アムレディアとシャーミアン、生きている人形のミラ、それにトリシアだった。
「生徒たちが、親睦を深めることも大切ですね」
いつもより軽装、男の子のような服を着たアムレディアは、柔軟運動を始める。
「ふふふ、騎士の真の姿、見せてやるとしよう」
ちょっと怪しい目つきで剣を抜いてみせるのはシャーミアンだ。
「……目立てる気がしなくなった」
肩を落とす男の子たちが真っ青なのは、どうやら寒さのせいだけではなさそうである。
「……あの、私はどうして?」
キコッと首を傾げたのは、生きている人形のミラ。
「君が友だちを作る、いい機会じゃないかと思うんだ」
と、アンリは身体をかがめ、視線の高さをミラと合わせて微笑む。
「あ、ありがとうございます!」
ミラは嬉しそうにアンリにお辞儀した。
一方。
「あ、あのー、アンリ先生? どうして卒業した私まで?」
トリシアは自分を指さして、アンリに尋ねていた。
トリシアのところに手紙が届いたのは、今朝のこと。
読んでみるとアンリからの呼び出しなので、喜んで星見の塔に来てみたら、いつの間にか参加する羽目になっていたのだ。
「君、これ持ち上げられる?」
レンが足下に置いてあった小麦入りの麻袋を指さした。
「そんなのかんた……ん!」
トリシアは袋に手をかけたが、袋は地面から離れようとしない。
「……無理」
トリシアはあっさりあきらめた。
「つまりそういうこと。君も体がなまってるんだよ」
アンリが微笑み、トリシアの肩に手を置く。
「君には先輩として、みんなの見本になって欲しい」
「うう」
アンリにそうまで言われると、トリシアも逃げられない。