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その頃。
「……なんか、あたしもうビリに近い感じ」
最後から四番目にいるベルは、背中の方を振り返ってつぶやく。
どん尻は、予想通りショーン。
その前を、よたよた走るのは着膨れしたアーエスで、最後から三番目はエマだ。
「こうなったら、ここでか弱い姿を見せて、先輩に助けてもらうのも……そうよ、そうしよーっと」
ベルはわざと速度を落として一番最後になると、何かにつまずいてひっくり返るマネをした。
「きゃあああああー、転んじゃったー! 先輩ー、助けてー!」
ベルの考えでは、これでレンが戻ってきて抱き上げてくれるはずだったが……。
「ベル!」
真っ先に走り寄ったのはショーンだった。
「どこか怪我したのか!?」
ショーンは息を切らせながら、ベルの腕をつかんで立たせる。
「肩を貸そうか?」
「先輩ならともかく、あんたごときが、あんたごときが、あんたごときがあ……」
ワナワナと肩を震わせるベル。
「?」
「あたしに触るなああああああっ!」
ショーンの腕を振り払ったベルは、いきなり炎の魔法を放った。
「この恩知らずーっ!」
ピュウウウウウウウウッ!
火の球に吹き飛ばされるショーン。
「……ベルは失格だな」
アンリは頭を振った。
そして、空にきれいな弧を描いたショーンが落ちたのは……。
ドスン!
ちょうどゴールの線の上だった。
「一等、ショーン! 総合優勝、シャーミアン・チーム!」
わーっ!
歓声を上げるシャーミアン・チームの面々。
「勝っちゃった」
一番驚いているのはベルである。
「もしかして、あたしのおかげ?」
「……インチキ」
けっこう真面目に走っていたトリシアは、白い目をベルに向ける。
「君のおかげだ、ショーン殿!」
リーダーのシャーミアンは、何が起きたのか今ひとつ分かっていないショーンをかかえ上げ、ぎゅっと抱きしめる。
「運動会、だーい好き!」
ベルが、どさくさ紛れにレンの背中に飛び乗った。
一方。
「……トリシア」
勝ち誇るシャーミアンたちに背を向け、深呼吸したアムレディアは、ニッコリとトリシアを振り返る。
「人間として大切なのは、やはり知性だと思わない?」
「あは、あはははは……」
知性の方にも自信がないトリシアは、ごまかすしかない。
「……ほんとに負けず嫌いなんですから」
姉に聞こえないように、キャットがつぶやく。
「でも、楽しかったです」
ミラがアムレディアの手を取った。
「ありがとうございました、王女様」
「……そうね」
ふうっと息をついたアムレディアは、ミラの頭を撫でる。
「私たちが、わ・ざ・と・勝たせてあげたあの方たちも、喜んでいるようだし、良しとしましょう」
「な、なんというか?」
「……誰も……あの王女様には……ある意味……勝てない……」
トリシアとアーエスは、顔を見合わせて苦笑した。
「まあ、たまにはこういう風に体を動かすのも悪くはないな」
奇跡の勝利の立役者であるショーンが、そう言ってからハッとしてアンリを振り返る。
「ま、まさか、毎年これをやるなんてことは……?」
「まさか」
アンリは笑顔で頷いた。
「毎月やる」
アムレディアとシャーミアンをのぞく全員がその場で崩れ落ちたことは、言うまでもなかった。
♪おしまい♪
…いつも優しそうなアンリ先生の意外(!?)な一面!
でもみんな、ちょっとは運動不足解消になったかな?