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「第二回戦は羊集め」
シャーミアンが戻ってくると、アンリは説明を始めた。
「名前の通り、これは羊を集め、囲いに入れる競技だ。十二頭の羊のうち、集めた数が多い方が勝ち」
「羊かあ」
トリシアはにんまりとする。
(この中で羊と話せるのはわたしだけ! 勝ったも同然!)
しかし。
「この試合は代表戦だよ」
アンリは続けた。
「各チーム、三人を選んで。アムレディア・チームはトリシア以外で。理由は分かるだろう?」
「……卑怯な手を」
アムレディアはアンリをにらむ。
「い、いやあ、トリシアを出す方が卑怯だと思うんだけど?」
レンはこわばった笑顔を浮かべる。
「仕方ないですね。こちらの代表はアーエス、キャスリーン、ミラで行きます」
アムレディアは三人を呼び寄せた。
「わた、私!?」
自分を指さし、キャットは唖然とする。
「無理ですわよ! 自分で言うのもなんですけれど、どう考えても、私はこちらのチームで一番の戦力外ですわ!」
「これでいいの。見ていなさい、シャーミアンは真面目すぎるくらいに真面目だから、こちらの人選の意図を深読みして、とんでもない失敗をするから」
アムレディアはささやいて微笑む。
「ま、まさか?」
疑いの目で姉を見るキャット。
しかし。
「では、こちらは……うむむ……」
アムレディアが踏んだとおり、シャーミアンは考え込む。
「なぜ、ここでキャスリーン姫を? これはきっと、王女殿下の裏の裏を読む作戦。いや、裏の裏の裏を読む作戦かも? それとも裏の裏の裏の裏を?……ええい! レンとショーン、ベルだ!」
さんざん悩んだあげく、シャーミアンは金髪をかきむしりながら指名した。
「ぼ、僕か!?」
「きゃーん! 先輩と一緒!」
ショーンは呆然となり、ベルはレンの腕に思い切りしがみつく。
「チームワーク最悪の三人……ていうかベル! 離れなさいって何度言わせるのよ!」
トリシアは怒鳴った。
「……代表戦に……ショーンを……出す……なんて……本当に……人選が……ぐたぐたに……王女様……すごい」
アーエスは目を見張る。
「では、開始!」
選ばれた六人は進み出ると、アンリの合図でそれぞれ自分のチームの柵に羊を追い込もうとする。
だが。
メエエエエエエッ!
羊たちは逃げるどころか、六人に向かって突進してきた。
「え?」
勝利を確信していたアムレディアが硬直する。
「そうそう、競技を面白くするために、この羊たちは特別、気の荒いのを選んだから」
試合が始まってからアンリは付け足した。
「それを先に言ええええええっ!」
お尻に頭突きを食らいながら、ショーンが怒鳴る。
「きゃーん! こわーい!」
ベルはレンに抱きつき、ペロリと舌を出す。
「だから嫌だと言ったんですのおおおっ!」
必死になって逃げ回り、叫ぶキャット。
「……勝ち負けより……命……」
「ですね」
アーエスとミラは、自分たちが柵の中に入って扉を閉じる。
「ととととととと、わひゃーっ!」
ドンッ!
ショーンも自分のチームの柵に逃げ込み、扉を閉じようとするが、間に合わない。
「……はい、終わり!」
アンリが時間切れを宣した時、アムレディア・チームの柵の中にいたのはアーエスとミラ。
そして。
「うぐぐぐー」
メエエエエ。
シャーミアン・チームの柵の中には、泥だらけのショーンと、ショーンを誇らしげに踏みつけている一頭の羊の姿があった。
「得点1対0、シャーミアン・チームの勝利! ……羊って、意外と大人しく柵に入ってくれないものだね」
「あははははは! どうやらショーン殿の底力を甘く見ていたようだな、王女殿下!」
いつもはしかめっ面のシャーミアンが、満面の笑みである。
「……ショーンの……底力?……無きに……等しい……のに……」
アーエスが頭を振る。
「これは教訓ね、勝利は自らの手でつかめと言う」
アムレディアはそう自分に言い聞かせるようにつぶやくと、皮の手袋をはめた。
「次は私が出ます」