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「派手な魔法じゃなくてもいいんだ」
アンリはそう言うと、塔の縁に近づいた。
「魔法は使い方でその価値が決まる」
見下ろすと、壁を上ってくる数匹のゴブリンの姿が見える。
「スレーヴィン!」
アンリは右手をゴブリンたちに向けて魔旋律を唱えた。
「す、すべるー!」
急に街壁がスベスベになり、登っていたゴブリンたちが滑り落ち始める。
「今のって、僕が作った猫の爪研ぎ予防魔法!?」
息を呑んだのはレンだ。
「そうさ」
頷くアンリ。
「役に立たない魔法なんてない。心を自由にすればね」
「くそおっ! ハシゴを持ってこい!」
壁を上れなくなったのを見て、ゴブリンの親玉は子分たちに命じる。
「あれが親玉か……」
アンリは目を細め、指先を親玉に向けた。
「ビーオ・テング!」
魔法の赤い光に包まれた親玉は、続けて子分たちに命令を出そうする。
だが、その口から発せられたのは、ゴブリン語ではなく、やたら甲高い音。
子分たちは親玉の言葉が聞き取れず、ハシゴを持ってウロウロするだけだ。
「やった! 今度は喋る速さが五十倍になる魔法! あれじゃもう命令できない!」
トリシアが歓声を上げた。
「まだまだ」
アンリは続けて、別の魔旋律を唱えた。
「オルディッヒ・グロッド・ウー!」
ゴブリンたちの背後に、腐った卵の山ができた。
「たまごー!」
腐った卵はゴブリンの大好物。
ゴブリンたちは戦いを止め、卵にかぶりつく。
「腐った卵に、ゴブリンが集まっちゃった!?」
トリシアは鼻をつまみながら、目を丸くする。
「今だ、プリアモンド!」
アンリは手を振り、騎士たちに合図した。
騎士たちは大きな網を取り出すと、一気にゴブリンたちの頭にスッポリと被せる。
卵に夢中のゴブリンたちは、一匹残らず捕まったことにまったく気づかなかった。