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少しして。
旅の支度を終えたセドリックと従者のライムの姿は、王都の南街門の前にあった。
鎧をまとったセドリックは白馬にまたがり、その手綱をライムが握っている。
ライムは槍や、他の荷物も担がされているので、出発前からもう疲れきった表情だ。
「さあ、心躍る冒険の始まりだよ!」
セドリックは腰に下げた剣をスラリとーー抜こうとしたが重いので簡単には抜けず、両手で力を込めてやっとの思いでーー引っこ抜いた。
「見るがいい、従者よ! 金貨1600枚で手に入れた名剣、名付けて……名付けて〜」
セドリックはそのまましばらく固まっていたが、やがてパッと顔を輝かせた。
「……高い剣!」
「詩心とか豊かな感性とは、無縁な人なんですね」
ライムがため息をつく。
「お褒めにあずかり恐悦至極!」
セドリックは馬上で剣を高くかかげるポーズを取ると、白馬をカポカポと南に向けて進め始めたのだがーー。
「……なかなか、現れないな」
ライムに手綱を取らせたセドリックは、少しするともう不満そうにつぶやいていた。
「そろそろ、この優れた流浪の騎士の助けを求める、可愛い乙女の悲鳴が聞こえてもいい頃だと思うのだが?」
「そう都合よく女の子が襲われてどうするんです? だいたい、まだ王都から100歩も離れてないじゃないですか?」
振り返ると、すぐそこに王都の南街門がある。
門番の顔さえくっきり見える距離しか、進んでいないのだ。
「そもそも、こんな見晴らしのいい場所に盗賊は出ません。盗賊は不意を突くものですよ。出るなら森とか、山道とかだと思いますけど」
「……つまり、この僕に恐れをなしているんだね?」
ちょっと考えてから、セドリックは分かったというようにうなずいた。
「どうしてそういう話になるんです?」
と、呆れるライム。
「では、ドラゴンはどうかな? ドラゴンならこの高貴で勇ましい僕の敵にふさわしいだろう? どこかの村で、悪いドラゴンがきれいな女の子をさらっていてくれないかなあ」
「ドラゴンが凶暴だ、なんていうのは伝説ですよ。たいていのドラゴンは人間を襲ったりしませんったら」
ライムは、首を横に振った。
そもそも、本当にドラゴンが暴れたら、セドリックなど一撃で山の向こうまで飛ばされるに決まっている。
「つまらない、実につまらないよ。……そうだ! ライム君、君が本当の姿に戻って女の子を襲い、僕に退治されるのはどうだろう?」
「絶対にお断りです」
「つれないねえ」
馬の上のセドリックは肩をすくめる。
そんな話をしているうちに昼が過ぎて、小さな村が地平線の上に見えてきた。
「おお、村だ!」
ライムはセドリックといっしょに村に入った。