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「あんな贅沢させて。本人のためにも良くないと思いますよ」
女の子たちが帰ってゆくと、ライムは馬上のセドリックを見上げて眉をひそめた。
セドリックは、女の子に金貨のつまった袋をポンと手渡し、これで服を買うようにと言ったのだ。
三人の兄たちは驚いて目を丸くしたが、女の子はお大喜びである。
「家出をすれば欲しいものが何でも手に入るって、あの子が思いこんじゃったらどうするんです?」
「大丈夫だ! 実際、ドレスが似合わなかったら、また別のドレスにすればいいのだからね!」
「そういうことじゃなくって! ……もういいです」
何を入っても無駄。
そう悟ったライムはため息をつく。
「さて」
西の空が赤くなり始めたことに気がついて、セドリックは馬を止めた。
「今日の旅はこのへんにしておくとしよう」
「このへんにしておくって、こんなところでテントを張るんですか?」
ライムはあたりを見渡す。
「君ね、上品で繊細な貴族の僕が、こ〜んな野生のど真ん中で寝られるはずがなかろう」
セドリックはそんなことさえ分からないのか、という顔でライムを見る。
「宿屋をこれから探すんですか?」
「宿屋は不潔だ。テントよりひどい」
セドリックは鼻の頭にしわを寄せて頭を振る。
「じゃあ、いったい?」
ライムはセドリックがどうしたいのか分からない。
「屋敷に帰るに決まっているだろう。ふかふかのベッドに暖かい暖炉、寝る前のミルク、それにママにお休みのキスをしてあげなくちゃいけない」
当然、という顔でセドリックはもと来た道を指さした。
「さあ、従者よ! 勇猛果敢な騎士の帰還を王都が待っているぞ!」
白馬の向きをクルリと変え、王都を目指すセドリック。
「はいはい。もう僕は帰れるだけで満足です」
次はぜひ、別の人を連れて旅に出てほしい。
手綱を取って隣を歩くライムは、心の底からそう思うのだった。
☆おしまい☆
…セドリックに振りまわされるライム…
でもなぜか楽しそうに見えるのは、なぜ?
この二人の今後に、ご注目ください!