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スペシャル インタビュー

特別企画/萩生田光一 文部科学大臣に聞く 「教師とは、未来を作る仕事です」 文部科学大臣 萩生田 光一

新型コロナウイルスの感染拡大による全国一斉休業や、小学校における35人学級の実現、GIGAスクール環境整備の前倒しなど、「激動」と言える1年間だった。そうした重要な時期の舵取りを行った萩生田光一文部科学大臣に、学校の在り方、教師の役割と多忙解消などについて伺った。
※このインタビューは、学研教育総合研究所と教育ジャーナル編集部が共同で行ったものです。

一斉休業で学校の存在意義明らかに

──学校一斉休業は、学校の存在意義を見直す機会になったように思います。
大臣昨年は、新型コロナウイルス感染症の感染拡大防止のため、全国的に学校の臨時休業措置がとられ、地域によっては約3か月もの長期にわたって 子供たちが学校に通えない状況が生まれました。その際、様々な問題が生じたことによって、学校は学習機会や学力を保障するという役割のみならず、全人的な発達、成長を保障する役割や、居場所、セーフティネットとしての福祉的な役割も担っていることが再確認されたと思います。
――そのことについて、各地のお子さんともお話をされたそうですね。
大臣ある子は、「あんなに行きたくないと思っていた学校が、行けなくなると、すごく愛おしいものになった」と言いました。また、不登校だった子が、ほかの子のことを心配して「みんな学校に行けなくて気の毒だ」と言ったという話も聞きました。

学校は、単に知識を伝達する場ではなく、人と人との関わりの中で、人生や社会を見据えて学び合う場なのです。GIGAスクール構想が進展し、一人1台端末の環境が整ったとしても、学校教育がオンラインだけで成立することにはならないと考えています。
――大臣は、オンライン授業において、学ぶ子供のそばに先生がいることの必要性に、かなりこだわっていらっしゃいました。
新型コロナウイルス感染防止の観点から、十分な距離を取ってインタビューを実施。(※1)
大臣基本的に学校というのは対面で行うものであると考えています。

ICT環境が整えば、学校の先生はいらないのではないか、授業の上手な先生が遠隔から授業をやるほうが子供たちのためになると言う人もいます。でも、学校は塾や予備校ではありません。先生が、クラスの子供たち一人一人の変化や成長の過程を見て、発達段階に応じた支援をすることが大切です。

先生方には、学習機会や学力の保障という役割に加え、人として成長していくことをしっかり支えていただきたいと思います。
――オンラインではできないこともありますね。
大臣コロナ禍で、オンラインの便利さは実証されましたが、全てに代替するものではありません。深く学んだり、意見を交換したりするのには、オンラインだけでは不充分です。

ただこれは、一概には言えないところもあります。オンラインの使い方は、発達段階でフェーズが変わるものだと思います。発達段階が上がれば、オンラインを上手に使って学びを深めるということもできるようになっていくのだと思います。

今回は、緊急避難的にオンラインを使いました。これから、GIGAスクールの環境が整備された中での遠隔・オンライン教育の在り方をどう評価するかということについては、現場でスモールステップで確認しながら、丁寧にルール化していきたいと思います。
――今後、学校も大きく変わっていきそうですね。
大臣まさに、これから目指していく学校教育を、「令和の日本型学校教育」というように捉え、「個別最適な学び」と「協働的な学び」を一体的に充実していくこととしています。

これまでは、クラスや学校の中で「理解が深まっているよね」とか「ここはわかりづらいね」ということを分析していました。

ICT環境が整備され、その活用が進めば、スタディ・ログ(学習履歴)を積み上げて、「やはり、ここは子供たちにわかりづらいのだ」と分析し、結果を全国で共有することもできるようになります。さらに、良い解決策があれば、それを直ちに横展開することもできます。

こうしたデータを上手に活用し、児童生徒の特性に応じたきめ細かな対応が可能になるなど、子供たちの学びや指導の在り方が、大きく変わっていくと思います。
――授業はどのように変わるでしょうか。
大臣例えば先日、沖縄の石垣島へ視察に訪れた際に、先生から面白い話を聞きました。国語の時間に雪の詩を読みますが、石垣の子ども達も、教えている教師も本物の雪を見たことがないんです、とおっしゃったんです。それを聞いたとき、雪が降らないところで、その叙情的な感性をどうやって磨いていくのか、すごく難しい面もあるかもしれないなと思いました。でもこれからは、北海道や青森の学校とオンラインで繋いで、例えばその雪景色の中で雪の話をしてもらうことができる。あるいは星の勉強をするとき、東京の子たちは空にたくさんの星があるなんて知らないけれど、石垣の空は南十字星をはじめ、多くの星が輝いているということを石垣島から教えてあげる、なんてこともできるでしょう。ICTツールを上手に活用することで、子ども達がこうした「深い学び」を経験できるようになると思います。
――教師の役割も変わりますね。
大臣「個別最適な学び」と「協働的な学び」の一体的な充実を図る中では、子供の主体的な学びを支援する伴走者としての教師の役割が、更に重要になるものと考えています。

例えば、同じ授業で全員が画一的に進むのではなく、同じ45分、50分を上手に使って、授業に遅れがちな子、あるいは“吹きこぼれ”と呼ばれるような、優秀で授業の先を行くような子に対して、それぞれの進度に応じた課題に取り組んでもらうことができると思います。個別最適化された環境のなかで、ひとりひとりのオーダーメイドの授業を、ぜひ目指してもらいたいと思います。
――逆に、変わらないものは。
大臣全ての子供たちの知・徳・体を一体的に育む日本型学校教育の本質は、令和の時代にあっても変わるものではないと思います。

教師による対面指導や子供同士による学びの機会を提供する学校の重要性は、これからもどんどん高まっていくものと思います。学校という場に集うということに、意味があるのです。この線は常に念頭に置いていたいですね。

また、清掃活動や給食当番、学校行事なども含めて学校教育全体で多様な他者との対話や協働を通じて新しい解や皆が納得できる解を生み出していくことで、子ども達は社会性や人間性を養います。こうした学校教育の良さは、令和も変わらないと考えています。

35人学級の実現

――小学校で35人学級となりますが、その効果のエビデンスも話題になりました。
大臣今回の少人数学級では、効果のエビデンスがないと否定される方もいました。私は、教育効果のエビデンスとはいったいなんなのだろうかと思います。テストの点が上がるというものだけではないはずです。

まずは、みんな学校が楽しい、不登校の子供たちが一人でも減っていく、みんなが学校に来ることに喜びを持ち、明るく学んでいる。それも大きなエビデンスだと思います。効果を数値的に示すことが難しいものですが、教育現場を知っている先生方が一番肌で感じていることだと思います。

少人数学級と、GIGAスクールをスタートしてみて、子供たちがどうなったのか、そこをじっくり見ていきたいと思います。
――もしかすると35人よりも少ないほうが良いかもしれませんね。
大臣もともと掲げた目標は小学校、中学校ともに30人でした。様々な事情で、小学校の35人からスタートすることになりましたが、これが完成形だとは思っていません。

35人にして良くなったという結果をしっかり示しながら、更に深く掘り下げていきたいと思っています。
――先生方の負担軽減の効果も期待されますね。
大臣先生方の役割が多様化して、本来の学校で勉強を教えるということ以外の負担がものすごく増えてしまっています。

自分が守らなければならない子供の数が少なくなれば、そのための作業も当然削減されるので、先生方にもいろいろと余裕が出てくる。そんな環境を作っていかないと、いい授業や教育はできないと思っています。

教師という仕事の魅力を高める

――教員採用試験の受験者が減っていることが問題になっています。
大臣まず、世の中に染み付きつつある「学校は大変な職場だ、先生って職業は大変だ」というイメージを払拭していかなければなりません。教師が 再び子供達の憧れの職業となるように、学校における働き方改革は喫緊の課題であると考えています。
――先生を魅力ある職業にとは。
大臣教師という仕事について、機会あるごとに申し上げているのですが、教師との出会いが、子供たちの人生観を変えるぐらい大きな影響力を持つ職業です。子供の頃、信頼できる憧れの先生に出会い、「自分も学校の先生になりたい」と思った経験のある方が多いのではないでしょうか。

ところが、あまりにも大変だというので、教師を目指していた人が、教師以外の職業を選んでしまうということが増えてきている。

教師は、子供に向き合って頑張れば頑張るほどその成果を出すことができる、やりがいのある職業だと思います。この教師という職業のステータスをしっかり高めていきたいと思っています。
――教師の多忙について、どこに問題があるとお考えですか。
大臣そもそも昨今の教師の多忙化の要因とは、学校の抱えている課題が多様化、複雑化してきていることにあると思います。

教師が子供たちの学習指導以外のところで多忙になっている。特別な支援を要する児童生徒や日本語の指導が必要な外国人児童生徒の増加、通学路の安全確保やアレルギー対策、中学校の部活動など、保護者や地域の期待が大きいものもあります。
――どうすれば解決できると思われますか。
大臣学校における働き方改革が、何か1つの解決策だけで解決するのであれば、頑張ってやってしまいたいところですが、そういう単純なものではありません。特効薬は無く、じわじわ広がってしまった業務をじわじわと戻していかなければなりません。

国、学校や教育委員会が、それぞれの立場で、教師が教師でなければできないことに全力投球できる環境を整備することが重要だと思います。
――国としてどのようなことをしていかれますか。
大臣公立小学校における35人学級の実現をはじめとした教職員定数の改善、外部人材の活用や部活動の改革、教員免許更新制の見直し、小学校高学年からの教科担任制など、さまざまな取り組みを組み合わせて、進めていきたいと思います。
――外部人材の活用については、どのようなことをお考えですか。
大臣教師の負担軽減に大きく貢献している外部人材の配置については令和3年度予算において、例えば、スクールサポートスタッフの予算を、前年度当初予算と比べて倍にしました。

さらに、新しい取り組みとして雇用維持に苦慮している企業と外部人材の活用を求める学校の橋渡しをするため、「学校雇用シェアリンク」を本年1月に開設しました。また、昨年から実施している「学校・子供応援サポーター人材バンク」には現在では2万人を超える方にご登録いただき、教員経験者や、様々な専門知識やキャリアをお持ちの方まで、幅広い人材が集まりました。

授業そのものにタッチする人も必要ですし、授業の準備、例えば、教材のコピーをとることなどをやってくれるっていうだけで、学校はとても助かります。スクールサポートスタッフは、学校事務職員とはまた違う意味で必須の人材ではないかなと思っています。1回配置したのですから、これを手放さないように、頑張っていきたいと思います。
――2020年からは新型コロナウイルス感染症対策も加わりました。
大臣働き方改革の取り組みと成果に加えて、今般の新型コロナウイルス感染症に係る勤務実態も踏まえつつ、令和4年度に教員の勤務実態状況調査を実施します。その結果を踏まえながら、教師の勤務環境について検討を行いたいと考えています。
――令和の日本型学校教育を行う先生方については、どのようにお考えですか。
大臣教師というのは、未来を創る仕事だと思います。その人との出会いが、子供たちを変え、結果として、地域や日本を変えていくわけです。そういう人づくりの素晴らしさに憧れを持ってチャレンジしてもらえるような環境をしっかり作り、教師を志す人を1人でも増やしていきたいと思います。

一方で、学校現場にはいろんな専門性が必要です。それを今は外部人材に頼っています。例えばソーシャルワークのような仕事は専門家の皆さんに巡回に来てもらったりしています。しかし、一番子供達のことを知っているのは担任の先生、学校の先生だと思います。大学の4年間の学部課程では学びきれない専門的なことを、あと2年かけて学び、資格を持って、現場に立つ先生が増えたら、より深い学びが提供できるのではないかなとも思っています。

慌てて22歳で教壇に立たなくてもいい。じっくり学んでから先生になる仕組みも作っていきたいですね。
――教職課程は見直しが必要でしょうか。
大臣現在の教育課程のカリキュラムは、旧態依然としている側面もあると思います。世の中が大きく変わって、子ども達も多様化しているのに、昔のカリキュラムで勉強して現場に立てと言われても、教師が不安になるのは当然です。例えば、これだけICTが進んでいるのに、それに関する大学での教科がわずかしかないという現状がある中で、教師のICT活用指導力については更なる向上を図る必要があります。こうした時代にそぐわない教員養成については、今後変えていかなければならないと思っています。
――教員免許状更新講習についても見直しを示唆されています。
大臣多忙な先生方が、限られた時間で更新講習を受けなければならないために、30年目の先生が10年目の方と同じ研修をもう1回受けるというようなことになっています。これでは、何のための教員免許更新制なのかわかりません。先生方の負担になっている教員免許更新制のあり方については、見直しが必要であると考えています。
――研修の必要性については、どうお考えですか。
大臣教師のみなさんが、普段の研修でどんどんキャリアアップ、レベルアップしていくことは望ましいことであり、研修は必要だと思っています。
――現場の先生方を、応援していこうとされていること、強く感じました。
最後に、多忙な中で頑張っていらっしゃる先生方にメッセージをお願いします。
大臣今年は、子供達にとっても、先生方にとっても、大変な1年だったと思います。全国一斉学校休業で失われた時間を取り戻すために、本当に皆さん頑張ってくださいました。日々の補習授業、夏休みや冬休みを短縮しての授業、そして、残念ですけれども、行事を圧縮するということにも、本当に奮闘いただきました。子供たちの学びを守るのだという同じ思いで現場でご苦労されたのだと思っています。

今回のこの経験が、日本の教育を変える大きな第一歩になると思いますし、またそうしなければならないと思います。この一年間の先生方のご苦労というのは、決して無駄ではありません。次につながる1年だったと思います。

子供たちを守るということに一緒に頑張ってくださった先生方に、感謝申し上げます。

まだ今後の状況がどうなるかわかりません。こうした中にあっても、学校が果たす役割の大切さを社会全体に認めていただき、再認識して頂くきっかけになったと思います。そういう職業にあることに誇りを持ち、引き続き子供達をよろしくお願いします。

(インタビュー/学研教育総合研究所主任研究員 大塚恵理子、教育ジャーナル編集長 石井清人 撮影/布川航太)

(※1)撮影はインタビューの前半のみに行い、撮影終了後は、全員マスクを付け、アクリルのついたてを立ててインタビューを行いました。

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文部科学大臣 萩生田 光一(はぎうだ こういち)
萩生田 光一

八王子市議会議員、東京都議会議員を経て、2003年11月衆議院議員当選(現在5期目)。文部科学大臣政務官、内閣官房副長官・内閣人事局長等を歴任。2019年9月(第4次安倍第2次改造内閣)より現職