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スペシャル インタビュー

特別企画 明治大学学長・土屋 恵一郎先生に聞く 大学はどこに向かうのか <前半> 明治大学学長・土屋 恵一郎

少子化や東京23区内私立大学の定員抑制等、私立大学にとって厳しい風が吹きすさぶ中、受験生からの絶大な人気と毎年10万人以上の受験者数を誇る明治大学。そのリーダーである明治大学長土屋恵一郎先生にこれからの大学のあるべき姿についてお話しをうかがった。

学長のイニシアチブ

──AIの活用など、自動運転技術が進むと今までにない社会課題が出てきます。 それらに関連する研究所を立ち上げたとメディアに取り上げられていましたが・・・。
土屋アニメの中の自動運転といえば「ネコバス」です。 まさしくその「ネコバス」つまり自動運転車はこれから過疎地域に欠かすことができないものになります。そうでなければ高齢者が病院や買い物に行くことができなくなってしまいます。しかしこの自動運転車は、法律・制度がないと走れません。
自動運転車を開発し、実験場で走らせているだけでは進展せず、法律・保険などの社会的インフラが整備されて初めて実用化することができます。この自動運転に関連する法律・制度についての研究をすでに行っている先生らがいたので、私がその先生たちを集め、約2ヶ月で自動運転社会総合研究所を設立しました。
──「スタッフを集めてから約2ヶ月とは・・・かなり早い動きですね。
土屋自動運転の技術面は他大学がすでに行っていました。しかし法律等に関してはどの大学も行っていない印象がありました。大学こそ、社会が求めているものに機敏に対応し、スピード感のあることをやっていかなければだめなのです。私は、この研究所の設立において総合大学のすごさを感じました。「単なる技術研究所ではなく、自動運転社会の総合的な研究所を作ろう!」とアイデアを出すと、そのアイデアを実現する人材が出てきてくれました。大学という場所はアイデアさえあればそれを実現できる人材はいくらでもいるのです。そのパワーを集めて大学のメッセージを発信しながら、日本の社会の変化に率先して対応していくことができる。それが総合大学の持つ力です。
ただ、学部という枠によって“縦割り”になってしまう部分もありますが、そこは学長の出番です。学長がどんどんアイデアを出して学部を越えた枠組みを作り、各学部の人材を結集して新しいことに取り組む、そういった大学の活力を示していくことが大事です。

オンライン授業の可能性

──ユビキタス教育など、オンライン授業の活用も行っていらっしゃいますね。
土屋たしかにオンライン授業についてはずっと取り組んできました。しかしいくらやっても大学でうまくいかない・・・だから「VRを活用したオンライン授業」という取り組みを導入したいと考えています。
VRを活用することで、明治大学にいながらハーバード大学やシンガポール国立大学といった海外の大学の授業を受けることができる仕組みです。今後、シンガポール国立大学の教員にシンガポールで授業をしてもらい、それを学生が明治大学にいながらVRで受講する実験を行う予定です。実はシンガポールには優秀な日本人教員が多くいるのです。ぜひ明治大学でも教鞭を取っていただきたいのですが、そこには「給与」という大きなハードルがあります。シンガポールの大学の方が給与が高いのです。このハードルをクリアするために、両方の大学に所属して授業を行うことができる「クロスアポイントメント」という制度を考えています。そうすることで、世界中にいる優秀な日本人教員の授業を日本にいながら日本語で受講することができるのではないかと思っています。
──なぜオンライン授業にVR技術を活用することを思いつかれたのでしょうか。そして今後、どんな展開を考えていらっしゃいますか。
ただ単に教員が授業を行う動画を視聴する従来のオンライン授業は、学生をつなぎとめる魅力にとぼしいと思ったのです。コンテンツやそれを伝える手段に魅力がないと、学習者は惹きつけられません。
また、遠征等が多い体育系の学生に対する教育に悩みを持っている大学は少なくないという現状があります。この悩みにおいても、講義は遠征先や合宿所においてVRで受講し、ゼミは大学で実施する。といった解決策が提案できます。またVRを活用することで、各地域の文化や言語もリアリティを持って学ぶことができますよね。
もっと最新技術を教育に組み込みながら魅力的・体感的な授業を行うべきですし、授業形態の多様化・活性化を進めていかなければなりません。
今後はVR事業が一番進んでいる中国企業と協力し、その技術をもって日本におけるオンライン授業の革命を起こしたいと考えています。

大学教育への企業の関わりについて

──共創教育サロン(明治大学において行われている教育に関する勉強会)の際のお話しが、心に響きました。特に、「企業は、大学が育てた果実(学生)をもぎとっていくだけでなくて、もっと大学に来ていろいろな支援をしてほしい。」というお言葉が印象深かったです。
土屋人材育成は大学がやっていくと宣言しています。その代わり、その人材を受け入れる企業は、その育成に関わる資金や人材を提供するといった相互関係を活発にしていただきたいと思っています。そして社会のリアルな現状に関する教育やインターンシップなどを実施してほしいと思っています。大学の行っている授業内容に即したインターンシップを企業が一緒に考えてほしいのです。国や企業は、大学に対してグローバル人材の育成促進を求めている一方で、「スーパーグローバル大学創成支援」事業の予算は削られており、大学の経済的負担は増大しています。大学が人材を提供するのであれば、企業は何を提供するのか・・・それを考えてほしいのです。

大学の授業の今後

──土屋先生はAL(アクティブラーニング)の話を、建学の精神につなげてお話しされていらっしゃいました。
土屋明治大学の創設者である岸本辰雄は、国立大学とは違う、国立大学ができない教育をするという志のもと、明治大学を創設しました。また「教員は学生に対する権威ではない。背中をたたいて教室に送りこんでも意味がない。知識の蔵まで導き、その蔵を開ける鍵は渡せるが、開けるのは学生自身である。」という言葉を残しています。この言葉は、まさに現在行われている教育改革におけるキーワード、「主体的・対話的で深い学び」に結びつきます。そして、教員の役割は学生のやる気を出させて導くこと。つまりTeacherではなく、 Facilitator(ファシリテーター)であるべきなのです。現在の日本の大学の授業はどうでしょうか。よく見かける、教員が教壇に立って教える大学の授業ではもう時代遅れなのです。そのスタイルでは、学生に対するきめ細かい教育やフォローをすることができないのではないでしょうか。
実は以前、シンガポールの南洋理工大学を見学した際に大きなショックを受けた経験があります。「大教室ではなく、30名ほどの学生を想定した小規模の教室」「広い廊下とそのコーナーに用意された椅子」「吹き抜けになった空間に設置されているハンモック」・・・学生は思い思いの場所で語り合い、学んでいるのです。まさにラーニングコモンズを意識した学習空間設計がされており、教室だけが学ぶ場所ではなかったのです。
現在明治大学は、新キャンパスの建設を計画しています。私はこれをチャンスと捉えています。建学の精神に通ずる「主体的・対話的で深い学び」を実現することができる環境づくりを新たに行うことができるからです。
従来のような大教室中心の授業からの脱却、食堂や図書館などが相互に関わりあった、アクティブラーニングを実践しやすいスペース作り(ラーニングコモンズ)など、意識的な施設計画の下で大学を作り変えていきたいと思います。これは新しい大学のあり方のモデルになるのではないでしょうか。
──その新しい形の大学において、どういった新しい授業や取り組みが行われるのでしょうか。
土屋古代ギリシャの哲学者アリストテレスは、弟子と歩きながら授業をしたといわれています。教室をはじめとした、どこか決まった場所で授業を受けるのではなく、スマートフォンやVRを使用して、どこにいても授業が聞ける、授業ができるといったシステムを作りたいですね。教師が、パリのカフェから授業・・・ということも考えられますね。
また、VRで授業を受けることによって、大学の施設は週に1度だけ集まってゼミをする場所に変わる・・・といったことも考えられます。
日々幾何級数的に発展している技術によって、このような施設を越えた教育が主眼になっていくかもしれません。
そこで大事なことは、教員が、技術の進展を嫌がらずに受け止める感覚です。教育はアートであり、教員・学生はパフォーマーです。様々な技術を用いて教育と言う絵を描いてほしいのです。
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~大学入学前、卒業後の教育 能に学ぶ教育方法~

インタビュー 栗山健/撮影 大塚恵理子/文 池内修子

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明治大学学長・土屋恵一郎(つちや けいいちろう)
土屋恵一郎

明治大学法学部卒業後、同大学院法学研究科博士課程単位修得退学。明治大学法学部専任助手を経て、1993年から専任教授。専門は法哲学。法学部長、教務担当常勤理事等歴任後、2016年に明治大学学長に就任。一般社団法人日本私立大学連盟常務理事、日本私立大学団体連合会高等教育改革委員会委員等も務めている。学外では一般財団法人観世文庫理事、特定非営利活動法人JAFSA(国際教育交流協議会)理事、一般社団法人地域伝統芸能活用センター評議員等を歴任。趣味は能観劇、古典音楽鑑賞で、著書に『怪物ベンサム』(講談社学術文庫)、『能-現在の芸術のために』(岩波現代文庫、芸術選奨文部大臣新人賞)、『NHK「100分de名著」ブックス 世阿弥 風姿花伝』(NHK出版)ほか多数