新学習指導要領への移行や、教師の働き方改革など、学校現場では様々な変化が求められている。変革の時を迎える学校現場のこれからについて、柴山昌彦文部科学大臣に話を伺った。
変化の激しい時代に適した「柴山・学びの革新プラン」
- ──まずは、昨年11月に公表された「新時代の学びを支える先端技術のフル活用に向けて~柴山・学びの革新プラン~」について、大臣に伺った。
- 大臣このプランは、大変、変化の激しいこの時代に適した学びを示すものとして発表いたしました。
Society5.0の時代における学校は、単に知識を伝達する場ではなく、人と人との関わり合いの中で人間としての強みを伸ばしながら、人生や社会を見据え、学び合う場となることが求められています。
そうした学校教育の現場において、中核を担うのが教師です。その教師を支え、その質を高めるツールとして、今日の先端技術には大きな可能性があります。こうした進展する技術を学校教育に積極的に取り入れることによって、教育の質を一層高めていきたいと考えています。
- ──プランの中では政策の柱として、
①遠隔教育の推進による先進的な教育の実現
②先端技術の導入による教師の授業支援
③先端技術の活用のための環境整備
の3項目があげられている。
それぞれの柱について、大臣は次のように述べている。
- 大臣まず①の遠隔教育については、2020年代の早期にすべての小学校、中学校及び高等学校で、遠隔教育ができるように、環境整備を推進していきたいと考えております。インターネット導入当初と比べて、技術的に大きく向上したこともあり、様々な状況に対応した教育の充実に資するものになっていると思います。例えば、小規模校、中山間地域、離島などにおける教育を充実させるために必要になってきます。
また、特別な配慮が必要な児童生徒に対する利活用、教員に対する指導という側面で、教師の質の確保のための教員研修において、遠隔教育が非常に優れた効果を発揮できるのではないかと考えています。
②の柱については、例えば、児童生徒のスタディ・ログ(学習履歴)をその後の学習指導に活用することなどが挙げられます。ビッグデータの活用による児童生徒の学習状況に応じた指導は、これからますます行っていかなければならないことだと思います。
また、教師自身の指導力の分析にも活用することができます。こうした分析データは、その教師本人の指導力向上に資するのはもちろんのこと、分析したデータを共有することにより、他の教員の学びにもなります。研修にそうしたデータを活用するということも想定されます。
③の柱については、教育のICT化に向けた環境整備5か年計画を踏まえて、学校のICT環境の整備をしっかりと促進していきたいと考えています。現在においても、地方財政措置により環境整備を行っているところですが、一層の推進のために、関係省庁、民間企業、大学などと連携し、先進技術導入のための環境の構築を着実に行っていくことが大事だと思っています。
全国学力学習状況調査などのデータの利活用促進と、セキュリティー確保と両立に向けた検討なども、しっかりと行っていかねばなりません。そうしたことのために、ICTに関する専門的な技術や技能を有する人材を活用していくという事も必要になってきます。
整備の遅れに対しては、地方財政措置になりますと、自治体ごとに、導入が進んでいるところと進んでいないところという格差が出てきてしまいます。そうした際に、どこまで導入が進んだのかということを「見える化」することによって、それぞれの自治体に問題意識を持ってもらうことが重要だと思います。
新学習指導要領へ期待すること
- ──高等学校までの新しい学習指導要領が出そろい、小学校は完全実施まであと1年で、新学習指導要領に対して、大臣が期待することを伺った。
- 大臣新しい学習指導要領は、Society5.0とも呼ばれる新たな時代の中で、子どもたちが未来社会を切り開くために必要な資質や能力を一層確実に育むという事を目指したものです。これらの時代においては、他社と協働し、人間ならではの感性や創造性を発揮しつつ、自ら問いを立ててその解決を目指したり、新しい価値を創造したりすることができる人材の育成が求められています。
各学校においてこの新しい学習指導要領が円滑に実施されることで、そうした取組が着実に進むことを期待しています。
これからの社会がどれだけ変化して予測困難なものになろうとも、新しい学習指導要領で学んだ子供たちが、それに対して自ら課題を見つけ、そして学び、考え、判断して、行動し、それぞれに思い描く幸せを実現してほしいと考えています。
私ども文部科学省は、この学習指導要領を周知するとともに、全国の優れた教育実践事例の提供など、一つ一つの施策にしっかりと取り組んでいきたいと考えています。
新学習指導要領で学んだ子供たちには、子供たちが持つそれぞれの力を伸ばし、主体的に様々なことに取り組み、他の人と協働する、こういった事ができる人材が社会に次々と輩出されることを期待しています。それは言い換えれば、変化の激しいなか、グローバル化が進むなかで、自ら未来を切り開いていく力のある人ということになります。また、そうした人たちが生きる社会が、活力にあふれるものになってほしいという思いもあります。
- ──また、新学習指導要領は、校種間の接続を強く意識したものになっている。その点について、大臣は次のように述べている。
- 大臣教育というのはプロセスが大切であり、それぞれの段階で、習得すべき目標というものがあります。単に「この学年では、この知識を学ぶ」ということではなく、より体系的な学びや技能習得が必要であり、こうした知見が取り入れられたことは、新しい学習指導要領の大きな特徴であると考えています。
学校における教師の働き方改革
- ──昨今、教師の多忙が問題になっており、中央教育審議会から答申も出された。この問題についての大臣のお考えを伺った。
- 大臣これまでわが国の学校教育は多くの成果を蓄積してきました。しかし、その成果の背景には、先生方がその使命感から、長時間の勤務もいとわず、様々な社会の要請にこたえてきたという事もあります。それは非常に尊いものではありますけれども、過労死に至ってしまうような痛ましい事態は変えていかなければなりません。
我が国の学校教育を、持続可能なものとし、新しい学習指導要領を円滑に実施していくためには、教師が、教師でなければできないことに全力投球できるように、学校における働き方改革を進めていくことが非常に重要なのです。
中央教育審議会の「新しい時代の教育に向けた持続可能な学校指導・運営体制の構築のための学校における働き方改革に関する総合的な方策について(答申)」を踏まえて、学校における働き方改革を強力に推進していきたいと考えております。
1月29日に、私を本部長とする「学校における働き方改革推進本部」の第1回を開催し、学校関係者や保護者、地域の方々をはじめとした国民の皆さまに対して、中央教育審議会の答申を踏まえて、学校における働き方改革を強力に進めていくという大臣メッセージを発信しました。さらに、何が教師本来の役割であるのかという事を含めて、働き方改革の趣旨や目的などを理解していただくためのプロモーション動画を制作し、3月8日に公開いたしました。また、働き方改革推進のための予算措置や現場の様々な課題に対しても、文部科学省としてしっかりと取り組む姿勢を見せていくことが重要だと考えています。
現場の先生方へのメッセージ
- ──最後に大臣から、現場の先生方へのメッセージをいただいた。
- 大臣新しい時代の要請に沿って、私たちの宝である子供たちを導く教師の仕事が非常に尊いものであるという事は、疑いのない事実です。
先生方においては、そうした崇高な職務を担っていることを誇りに思い、生きがいや、やりがいを持って、教師という仕事に取り組んでいただきたいと思います。
私共、文部科学省は、働き方改革も含め、先生方の崇高な取り組みを全力で支援をしていく決意です。
どうぞ今後ともよろしくお願いいたします。
インタビュー 栗山健/撮影 小板直樹/文 辻田紗央子 企画協力/教育ジャーナル編集部
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大学卒業後、住友不動産株式会社勤務、弁護士を経て2004年4月衆議院銀当選(埼玉8区、以来連続6回当選)。外務大臣政務官、総務副大臣、内閣総理大臣補佐官等を歴任。18年10月より現職。