自身を振り返ってみて、ピアノを習うからには西洋音楽の歴史や成り立ちを、簡単でいいですから習い初めに教えてもらっていたら、もっと早く西洋音楽を理解できたのではなかったか…、と思います。
西洋音楽は1本のメロディーをもとにポリフォニーを展開し、和声を生み…(その作曲法の発展の過程でピアノの誕生を迎えます)と、複雑に材料を組み合わせて大きな建築物を作り上げていくような立体的な考えがその基本にあります。その過程(歴史)を知ることで、西洋音楽への理解はぐっと深まるように思われます。具体的には、単なる1個の和音だと思いこんでいた重音が、実は3声のポリフォニー音楽の流れに組み込まれた大切な音たちなのだ、と理解することが、表現する音楽の内容を密にし、音楽することを楽しくするのです。
美しいハーモニーを演奏できる素晴らしさに惹かれてピアノを習う人は大勢います。ところがピアノの曲はほかの楽器に比べると、音の数が多くて、譜読みも演奏するのもたいへんです。たくさん練習もしなければならない…、すると音楽のことは忘れて、間違えずに楽譜を鍵盤上に移し替える練習だけに集中していきがちです。これは辛い仕事ですからサッサと方向転換したくなってしまいますが、そのとき、どんなに重なりあった音でも、その1つ1つの音が独立したメロディーに組み入れられて、1曲の大きな流れをつくっているのだ、ということが分かれば練習にも意義を感じ、音楽することがもっと楽しくなるのではないかと期待しています。
【回答してくださった先生:伊能美智子先生】
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