WEB限定 書き下ろし小説

スペシャル企画 南房秀久先生 HP限定書き下ろし 恋愛、タルト、ショーンの災難!!

「うむ?、困った。これでは何も聞きだせなかったのといっしょではないか?」
『星見の塔』を出たショーンは、うで組みをして考えこんだ。
「ショーンの……せい。」
 アーエスのほうは、あきれ果てて何も言えないといった顔。
「ひ、人を責(せ)めるのは良くないぞ、アーエス! それよりも、これからどういう手を打つかだ!」
 人の失敗なら喜んでヤリ玉に挙げるが、自分のことを指摘(してき)されるのはとことんきらいなショーンである。
「……じゃあ。」
 みょうな色にひとみをかがやかせ、提案(ていあん)するアーエス。
「捏造(ねつぞう)する?」
「ね、捏造?」
「どうせ……適当(てきとう)な話をしても……ベルには……本当かどうか……分からない……だから……。」
 アーエスは、そっとショーンに耳打ちした。
「ほう? つまり、レンどのからちゃんと話を聞いたことにして、ベルにデタラメを教えろと?」
 ショーンも声が小さくなる。
「正直に……何も聞きだせなかったって……報告(ほうこく)して……おこられるより……マシ……。」
「あのなあ! そんなことが!」
と、言いかけたショーンの頭の中に、ひとみにいかりの炎(ほのお)を宿したベルの顔がうかかぶ。
「……どんな話をしたらベルが喜ぶか、くわしく検討(けんとう)しよう。」
 二人はベルに伝える話の内容を相談するため、『三本足のアライグマ』亭(てい)へと、足を向けた。

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「聞いてきてくれたの!?」
 翌朝(よくあさ)。
『星見の塔)』に登校してきたベルは、待ちかねたようにショーンたちに声をかけた。
「メ、メモしてきたぞ。」
 ショーンは視線(しせん)をそらすようにして、紙の束を手わたす。
「あんまり期待してなかったんだけど、やっぱり、友だちね?! ありがと!……どれどれ……ふうん。」
 熱心に目を通すベル。
「……こんなによろこばれると、罪悪感(ざいあくかん)がなあ。」
 ショーンはつぶやく。
「油断(ゆだん)は……禁物(きんもつ)……。」
 アーエスが、ショーンのわき腹(ばら)をひじでつっつく。
「一瞬(いっしゅん)で……コロッと変わるのが……ベルのごきげん……。」
「それもそうだな。」
「何なに……思ったことをポンポンと口にする子。年下の、妹みたいな子。黒髪。おしゃれな子。勉強のできる子。お菓子作(かしづく)りの上手い子。特に、シトラスベリーをいっぱいのせたタルト作りが上手な子!」
 メモに目を通すベルの顔が、次第に明るくなってゆく。
 ちなみに、シトラスベリーは酸味(さんみ)の強い、小さな黄色い果実だ。
「……すっごい! これって半分以上、あたしに当てはまるじゃない!」
「そう? よかった、よかった、あははははは……。」
 引きつった顔で笑うショーン。
 実際(じっさい)、半分ぐらいは当てはまるように、二人して考えたのだから、当然といえば当然である。
「これはもう、今日、今すぐからでも始めないとね!」
 ベルは今にもおどりだしそうな様子で、ショーンとアーエスに宣言(せんげん)した。
「な、何を?」
 ショーンはいやな予感を覚える。
「決まってるでしょ! 完璧(かんぺき)に、レン先輩好みの女の子になるための特訓よ!」
「なかなか……けなげ。」
 アーエスはちょっとおどろく。
「だから、あんたたち、手伝いなさい。」
 ベルは命じた。
「感心して……そんした……。」
 一瞬で前言を撤回(てっかい)するアーエスだった。