「何よ! 何よ、何よ、何よ! 全っ然、見つからないじゃない!」
ここは南の森。
到着(とうちゃく)して、まだいくらも探(さが)さないうちにベルはいかりを爆発(ばくはつ)させていた。
「いったいどこに生えてるの、シトラスベリーのやつ!?」
「季節も終わりだっていうんだから、そう簡単には発見できないぞ。」
と、なだめるのは、植物には学者並みにくわしいショーン。
「じゃあ、どこに生えてるのよ! 見つからなかったら、許(ゆる)さないんだから!」
「……理不尽(りふじん)な。」
アーエスが小さくつぶやく。
「日当たりのいい場所に、シトラスベリーは生える。森のおく深くよりも、道沿(みちぞ)いを調べたほうが、見つかる可能性(かのうせい)は高い。」
ショーンはうんざりしながらも、探すべき場所を教えた。
「命令してるだけじゃなくて、あんたも探すの!」
「……はい。」
そして。
「発見! なんだ、簡単だったじゃない!」
簡単だったという意見には、ショーンもアーエスも決して賛成(さんせい)しないだろうが、夕暮(ゆうぐ)れ近くになって、ベルはシトラスベリーを見つけていた。
「やっぱ、あたしってすごい!」
「発見よりも……取るのが……困難(こんなん)……かも。」
シトラスベリーの生えているところを見て、アーエスがかたをすくめる。
薄黄色(うすぎいろ)の実をつけたシトラスベリーは、険(けわ)しいがけの、それも中腹(ちゅうふく)あたりに密生(みっせい)していたのだ。
「ここから落ちたら……無事じゃすまないな。」
がけの上から谷底をのぞきこみ、ショーンはゴクリとつばを飲みこむ。
「でも……下から……上るより……こっちから……下りたほうが楽。」
「それはそうだが……。」
と、二人が話しているうちに。
「待っててね! レン先輩! あたしの愛のタルトを!」
ベルは鼻歌を歌いながら、がけを下り始めた。
普段(ふだん)なら、絶対にショーンに命令して取らせているところだが、あまりにうかれてしまい、そんなことは頭の片(かた)すみにもうかばないのだ。
「ベ、ベル! もどれ!」
がけの上から怒鳴(どな)るショーン。
「大丈夫だって!」
ショーンとちがって運動万能(ばんのう)なベルは、草をつかみ、石に足をかけながら、すばやく下りてゆく。
数日前の雨で、土がくずれやすくなっているのだが、そんなことは全然気にもしない。
***********************************
そして。
「……いいかおり。」
薄黄色の果実を間近に見て、ベルはうっとりとした表情(ひょうじょう)になった。
その小さな実を、ひとつひとつ、指でつみ取る。
「……これで……タルト一皿分(ひとさらぶん)! ほら、けっこうな収穫よ!」
スカートの前の部分に、シトラスベリーをたくさん包んだベルは、ほこらしげにがけの上に二人に声をかける。
「あのなあ、脚(あし)、見えてるぞ!」
ショーンはほおを赤くして顔をそらす。
「うれしい?」
と、アーエス。
「なワケがないだろう!」
「じゃあ、さっそく帰ってタルト作りね!」
片手はスカートをおさえているので、ベルは空いているほうの手だけでがけを伝い、上ろうとする。
「気を……つけて。」
と、心配そう……に見えないこともないアーエス。
「こんなの、へっちゃらだって。」
ベルは余裕(よゆう)の表情で、切り立ったがけをスイスイと上り始めた。
しかし。
「……え?」
ガラガラガラ!
突然(とつぜん)、ベルが足を乗せていた岩が、周囲の土とともにくずれ落ちた。
ベルも足場を失い、宙(ちゅう)をまう。
「!」
まっ逆(さか)さまに落ちてゆくベル。
次の瞬間。
「ベル!」
ショーンは地面をけり、がけから飛びおりていた。
まるで、体が勝手に動いたかのように。
「間に合え!」
ショーンがのばした手が、ベルの服をつかんだ。
その体を空中でだきとめたショーンは、とっさに自分の背(せ)を下にして、目を閉じる。
ガッ!
背中と足が、どこかにぶつかる。
大きなしょうげきとともに、ショーンの意識(いしき)は遠くなっていった。