「……う……ううん。」
ショーンが目を覚ますと、ベルとアーエスが自分の顔をのぞきこんでいた。
どうやら、ここはがけの下らしい。
「……ショーン……命……ある?」
アーエスがたずねる。
「い、生きてるよ、おかげさまで。」
何とか立ち上がるショーン。
「トリシアのところに連れてってあげる! あたしに負ぶさって!」
ベルは背中を向けて、しゃがみこむ。
「そんな格好悪(かっこうわる)いこと、できるか! って、痛(いた)ああああ!」
自分で歩こうとしたショーンの足に、激痛(げきつう)が走る。
「ほら!」
「いやだっ! はずかしいだろ!」
「いいから早く!」
「ショーン、言われた通りに。」
「うう。」
しぶしぶ従(したが)うショーン。
「……こっち。」
『探知』の魔法で、王都までの近道を見つけたアーエスが先に進む。
「何かあったら、あたしのせいだ……。」
ショーンを何とか背負(せお)ったベルは、ふらつきながらも速足でアーエスの後に続く。
「どうしよう、あたしのせいだ……。」
「だ、大丈夫だ。」
あまり思いつめた様子なので、背中のショーンが気を使って声をかける。
「死んじゃわないでよ! 死んだら、すっごくおこるからね!」
ふるえる声。
「そ、そんなにひどいのか……。」
大したことはないと思っていたが、ベルがあんまりさわぐので、だんだん不安になってくる。
ただひとり……。
「これくらいのことで……むしろ……トリシアに……みてもらうことのほうが危険(きけん)?」
アーエスだけが冷静で、そのうえ失礼だった。
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「あ?、こりゃ骨(ほね)にヒビが入ってるね。」
ショーンの足を一目見て、トリシアは診断(しんだん)を下した。
トリシアはかけ出しだが、一応(いちおう)は診療所を構(かま)える魔法医(まほうい)。
そのくらいのことは分かる。
「骨(ほね)にヒビ!」
ショーンの顔色が青くなる。
「それって重傷(じゅうしょう)なの!? 命に関わるんじゃないの!?」
あえぐベル。
「関わる訳(わけ)ないでしょ。」
トリシアは、ショーン本人より、ベルが深刻(しんこく)そうな顔をしているのにちょっとおどろく。
「大丈夫。すぐに治るって。」
「そ、そう。」
ベルはホッとしてゆかに座(すわ)りこんだ。
「……よかった、本当に。」
「ベル……泣きそう?」
顔をのぞきこむアーエス。
「な、泣きそうになんかなってない!」
ベルはムキになって、こぶしで目をぬぐう。
「で?」
トリシアはショーンをふり返ると、ニッと笑った。
「どうやって治す? すっごく痛いけど、魔法を使って一瞬で治しちゃうか? それとも、ちょっと時間はかかるけど、湿布(しっぷ)とそえ木で自然に治すか。」
「い、痛くないほうでたのむ。」
ショーンの決断(けつだん)は早かった。
「……根性なし。」
白い目で見るアーエス。
「時間をかけたほうが、しっかり治るんだよ!」
と、ショーンは言い返す。
「そうだろう、トリシア!?」
「その通り。」
薬草の湿布を使ってゆっくり回復(かいふく)させるほうが、魔法で急激(きゅうげき)に回復させるよりも体への負担(ふたん)が少ない。
トリシアとしては、すぐに治さないと命に関わるような場合を除(のぞ)いて、自然治癒(ちゆ)の力を利用するやり方のほうが好きだった。
「でも、どこでどうやってけがしたのよ? 一応、アンリ先生に報告しなくっちゃ。」
トリシアは三人組を見わたした。
「……ごめんなさい、あたしにちょっぴり責任(せきにん)があるの。」
うなだれるベル。
(ちょっぴりだと!?)
(九割九分九厘(きゅうわりくぶくりん)まで……ベルのせい……。)
ショーンとアーエスの二人が、心の中で抗議(こうぎ)したことは言うまでもなかった。
「あんたたちね?。」
手当てを終え、話を聞いたトリシアは額に手を当てた。