「だって……レン先輩に……気に入られたかったんだもん。」
くちびるをとがらせるベル。
「でも、変じゃない?」
トリシアは首をかしげる。
「レンって、シトラスベリー、きらいなはずだけど?」
「え? シトラスベリーがたっぷり入ったタルトが、死ぬほど好きなんじゃ?」
「酸(す)っぱいものって、全般的(ぜんぱんてき)にだめみたいだよ。セルマさんところで、ケーキに酸味(さんみ)が強い果物が入ってると、よけて食べるくらいだもの。」
「じゃあ、シトラスベリー入りのお菓子を作ってくれるような子が好きっていうのは?」
「あははは、ないない。」
「……参考までに聞くけれど、思ったことがポンポン口から出る女の子って好きよね?」
「それもないなあ。レンの好みって感じじゃないよ。」
「もしかして、妹みたいな子っていうのも、好みとはちがったりする!?」
だんだん、ベルの声がかん高くなってくる。
「あのさ……。」
トリシアは頭をかいた。
「レンの好みの女の子って、全然、そんなのじゃないわよ。」
「……え?」
「ひとことで言えば、レンが好きなのは、優(やさ)しくてきれいなお姉さん。」
「うそっ!」
「あいつがいつも、デレ?ッとした顔で見とれてるのって、そういう女の人だもん。」
トリシアは断言(だんげん)した。
「……へえ。それって。」
ベルは、ショーンとアーエスの方をふり返った。
「どういうことかな?、ショーンくぅん、アーエスちゃん!?」
いつもの二倍ほど、まゆがつり上がっている。
「どういうことだか……皆目……見当が……。」
目をそらすアーエス。
「そ、そうだ! レンどのの好みに急激な変化が起こった……とか?」
何とかごまかそうとするショーン。
「……ははあ。」
もちろん、それでごまかされるほど、ベルは素直(すなお)ではない。
「あんたたち、でっち上げたのね? にせの情報(じょうほう)を?」
「いや?、これはつまり。」
「最低っ!」
ベルは、診療所のかべにドスンとこぶしをたたきつけた。
「ほとぼりが……冷めるまで……身をかくさないと……な?んちゃって。」
ダッ!
「さらば……。」
診療所からにげ出すアーエス。
今までアーエスが、こんなに速く動いたことがあっただろうか?
と、思うくらいのしゅんびんさである。
だが、足を動かせないショーンはそうはいかない。
「あ、待て! アーエス、ずるいぞ!」
「あんたはにがさん!」
ベルはショーンのうでをガッチリとつかんだ。
「さ?てと、おやつを食べに『三本足のアライグマ』亭に行こ?っと。」
トリシアも、巻(ま)きこまれるのはごめんだと診察室(しんさつしつ)から出てゆく。
「ごゆっくり。」
「ま、待て、トリシア! お願い、助け……。」
「もう手おくれよ!」
ベルは、とびらのかぎをしっかりとかける。
「ひいいいいいっ! ごめんなさ?いっ!」
トリシアの診療所に、ショーンの悲鳴がひびきわたった。
終わり?