第四回
と、その時。
「いいおじょうさんですね」
「?」
部屋のすみから、聞きおぼえのない声がした。
「アーエスちゃん、だね?」
暗いかげの中から、見知らぬ男がすがたをあらわす。
黒い外とうと、黒いつば広の帽子(ぼうし)。
まるで、ゆうれいのようだ。
「…………」
男が近づいてくると、アーエスは用心深く後ずさった。
「この方はゆうふくな商人でね。お前に仕事をお世話してくれるそうだ」
父はアーエスを安心させるように言う。
「わたしといっしょにおいで。たくさんお金がもらえるよ」
商人の男は、アーエスの肩(かた)に手を置いた。
その手の冷たさに、アーエスはビクッと身体をふるわせる。
「悪い話ではないと思う」
父はそう言いながらも、アーエスが見つめると、しせんをそらした。
「どうかな、アーエスちゃん?」
商人はねこなで声を出し、かがんで顔を近づける。
(……お金)
今、家族のみんなに必要なのは、お金。
お金があれば、弟や妹に、少しはおいしいものを食べさせてあげることができるのだ。
「…………働き……ます」
小さく息をついて、アーエスは答えた。