第四回
「学校サボるって、最高!」
取りまきたちがかげぐちをたたいているのを聞いてしまった日以来、ベルは学園には行っていなかった。
毎日、ブラブラと街を歩いて、学校が終わるころまで時間をつぶしているのだ。
今日は王都の真ん中にある中央広場まで足をのばし、屋台やお店を見て歩いている。
東街区の商店とちがい、何やらあやしげな品がならんでいたりするのでちょっと楽しい。
「……結局、あれでふっ切れたのかなあ」
屋台のリンゴを手に取りながら、ベルはつぶやく。
ベルがあれ、と言ったのは、ショーンとの大げんかのことである。
あの後、落ちこんでいたはずの気分が、ずいぶんとすっきりしているのだ。
「ま、もう二度とあいつには会いたくないけどね」
と、ベルが代金をはらってリンゴにかじりついたその時。
「?」
しかいのはしに、見覚えのあるすがたが飛びこんできた。
「あれって……」
アーエスである。
東街区の市民広場以外ですがたを見るのは、これが初めてだ。
「ねえ、アー……」
ちかよりながら、手をふって声をかけようとしたベルは、立ちどまった。
黒い外とうをまとった男が、アーエスの手を引いているのだ。
(何だろ? いやな感じ)
ベルは男の背中(せなか)を見つめながら思う。
「おや?」
男はベルのしせんに気がついたのか、ふり返った。
「これはこれは、ベルおじょうさま」
そう言っておじぎをした男の顔を、ベルは覚えていた。
家に出入りしているぼうえき商のひとりだ。
ベルは前から、この男が何となく気に入らない。
言葉づかいはていねいだが、信用の置けない目をしているように思えるのだ。