第四回
「あら、どうも」
自分がいだいているけんお感をさとられないように、ベルはスカートのすそをつまみ、アリエノール学園流のお上品なやり方であいさつする。
「おひさしぶりですこと」
「お父上は航海からおもどりだそうで?」
上目づかいでベルを見る商人。
「ええ。つい先日」
と、ベル。
「そうですか、そのうちまだごあいさつにうかがいますとお伝えください」
「はい。ぜひまたおいでください。ところで……」
ベルはさりげなくしせんでアーエスを示した。
「その子はおじょうさん?」
「いえいえ、この子は……」
商人はアーエスの肩に手を置く。
「わたしの親せきの子供でしてね。しばらくあずかることにしたんですよ」
「……そう?」
ベルはアーエスの顔を見た。
「……」
だまってうなずくアーエス。
「おじょうさま、それでは失礼しますよ」
商人は笑顔で言い、立ちさろうとする。
「……さよなら」
そう告げたアーエスの声は、ほんのわずか、声がふるえていた。
もう二度と会えないかのように。
「ぜったいにあやしい……」
二人の背中を見送りながら、ベルはつぶやいていた。
さっき、さよならを告げた時の、アーエスの(ひとみ)。
あんな悲しそうな瞳をしたアーエスを、ベルは今までに見たことがない。
(あたしなんかよりもずっと強いアーエスが、あんな……)
ベルはこっそりと商人の後をつけることにした。