第二回
『星見の塔』に来る前、おじょうさま学校に通っていたベルは、ゆうふくな商家の者のたしなみとして、馬術を勉強していた。
頭を使うことはダメだが、運動神経はいいベル。
馬術の成績だけは、つねに一番だったのだ。
「こら、おとなしくしろ! 勝手に動くな! 乗れんではないか!」
ベルの言葉通り。
白馬はショーンの言うことをぜんぜん聞かず、勝手に動き回り、かんたんにはまたがらせてくれない。
ブッヒヒヒ~ン!
歯をむき出しにして、ショーンをばかにする白馬。
「き、きさま! 動物のぶんざいでサクノス家をぐろうするか!」
ほかの受験者がとっくにじゅんびを終えたというのに、ショーンと白馬の一組だけがモタモタしている。
「……ああもう! ほんと、見てられない!」
ベルはとうとう、がまんできずに応援席から飛びだし、ショーンのもとにかけよった。
「こ、こら、ベル! 会場に乱入してくるな! はずかしいだろうが!」
他人のふりをするわけにもいかず、ベルを追いはらおうとするショーン。
「ほら、手伝ってあげるから! 手綱を貸して!」
「そんなかっこ悪いことできるか!」
「いいから! よこしなさい!」
「わわっ!」
ベルはショーンの手から強引に手綱をうばうと、試験監督であるシャーミアン副騎士団長にきょかを求める。
「ねえ、いいでしょ、副騎士団長さん!? このまま放っておいたら、こいつ、いつまでたっても走りだせないもん!」
「……仕方ないですね」
うで組みをしたシャーミアン副騎士団長はうなずく。
「どうっ! おとなしくしなさい!」
ベルはグイッと手綱を引き、白馬の目をにらんだ。
「でないと……分かるわよね?」
ブルルッ!
ベルが馬術の達人であることをさとったのか、それともただこわかっただけのか。
白馬はベルと目が合ったとたんに、ふるえ上がっておとなしくなる。
「ほら、今よ! あぶみに足をかけて!」
ショーンをふり返り、命じるベル。
「よ、よし!」
ショーンはようやく、くらにまたがることができた。
「ほら、早く出走位置にならんで!」
「あ、ああ」
「がんばって!」
ベルはポンと馬のおしりをたたき、ショーンを送りだす。
「……がんばって?」
何か意味ありげな視線を、応援席にもどってきたベルに向けるアーエス。
「べ、べ、べ、別に本心から言ってるんじゃないわよ! けど、落ちちゃえ~って声かけるわけにいかないでしょ! い、ち、お、う! あたしたち、応援なんだし!」
ベルはプイッと横を向いた。