後編
目を細めた親玉は、さっきまでとは違った、冷たい口調になる。
「パットに手を出すな! パットに手を出したら、許さないからな!」
レンは親玉をにらんだ。
「ほー、許さねえならどうする?」
親玉はそう言うと、子分たちに合図した。
「……お前ら。こいつが、うん、と言いたくなるまで遊んでやれ」
「へへへ、そうこなくっちゃ!」
子分のひとりが、落ちていた角材を握ってレンの前に立った。
「前からお前は気に入らなかったんだよ!」
子分はにやにやしながら角材を振り上げると、レンの頭に振り下ろした。
と、次の瞬間。
「たたたたたたたーっ!」
子分は角材を落とし、悲鳴をあげた。
「このくらいのことで、情けない声出すんじゃないよ」
と、あきれた声を出したのは、子分の腕をねじ上げたアンリだった。
「お前!? どうしてここに!?」
目を丸くするレン。
「どうしてって……」
アンリは子分の手を放すと、首をひねる。
「どう見ても怪しそうな連中が、ゾロゾロと路地裏の袋小路に入っていくのを見たら、気になって後をつけたくならないか?」
「普通なんないだろ!」
「まあ、よけいなことに首を突っ込むのが、僕の悪いくせだからね」
アンリは、不良少年の一団を見渡した。
「……それはそれとして、あんまり友好的な雰囲気じゃないね?」
「けっ! 警備兵かと思ったら、ただのガキじゃねえか?」
少年たちの親玉は、吐き捨てるように言った。
「怪我したくなかったら、引っ込んでやがれ!」
「いや、自分と同年代の連中にガキって言われてもね」
と、アンリ。
「うせろ!」
「ひっこんでやがれ!」
不良たちはアンリを囲んですごむ。
「お前に関係ねえだろ!」
「んー、関係ないことはないというか……微妙なところというか……」
アンリは説明に困る。
「お前な! 落ち着いてる場合かよ! 早く逃げろ!」
レンは怒鳴った。
「なんで?」
「な、なんでって……」
「めんどうくせえ! こいつも叩きのめせ!」
少年たちの親玉は子分たちに命じた。
「やっちまえ!」
いっせいにアンリに殴りかかる少年たち。
「レン」
アンリはほんの半歩動いて、正面の少年の攻撃をかわした。
「言っただろう? 自分のしでかしたことの償いは、自分でするしかない」
背後から、つかみかかろうとする別の少年。
「だけどまあ、その手伝いぐらいは、ちょっとぐらいしてもいいかな?」
アンリはわずかに体をかたむけただけで、これも見事によける。
戦場で本当の戦いを経験したアンリにとって、不良のけんかなど、ダンスにしか見えないのだ。