後編
そして数日後。
アンリとレン、トリシアの三人は、『時の魔法院』の最上階にやってきていた。
まだ壁にすえ付けていない黒板や、魔法関連の本の山。
机とイスが二組。
床の上に無雑作に置かれている。
「見ろよ、パット! ここが俺たちの学校だぜ!」
ほこり臭い部屋を見渡して、レンは顔を輝かせる。
「違う!」
ガツンッ!
トリシアは、レンのあごにまたまた頭突きを食らわせた。
「私はトリシア! パットじゃない! それに、俺たちの、じゃなくて、私たちの学校でしょ! 言葉づかい、ちゃんとするの!」
「わ、分かったよ! 僕たちの学校! これでいいだろ!」
「……許す」
「でさ、アンリ……じゃなくて、アンリ先生! この学校の名前、どうするんだ!?」
ゴツン!
「どうするんだ、じゃないの、どうするんですか!」
またも、頭突きとともに、訂正を入れるトリシア。
「な、名前かあ……考えてなかったな。昔は第五魔法院って呼ばれていたらしいけど……」
アンリは頭をかいた。
「昔の名前なんてどうでもいいって。それよりもさ、『剣と魔法の砦』っていうのは?」
「剣術は教えるつもりはないし、砦でもないだろ? 『魔旋律研究所』は?」
「地味すぎ。没」
「じゃあ、そうだな……」
と、二人が考えている間に、トリシアは窓に駆け寄ると、身を乗り出して外の景色をながめた。
城壁に囲まれたアムリオンの街。
その街のすべてが、この窓からは見渡せる。
街を南北に分ける大レーヌ川。
テントや屋台が立ち並ぶ中央広場。
広い邸宅が並ぶ西街区に、荷馬車が行き交う東街区。
そろそろ夕飯の時間だろうか?
南街区の小さな家々には、ポツリポツリと明かりがともり始めている。
顔をあげて天空を仰ぎ見ると、星々は手を伸ばせば触れられそうなところで、静かにまたたいていた。
「……ここ、星がきれい」
息を呑むトリシア。
「星かあ」
レンもトリシアの隣に行くと、肩を並べて空を見る。
「……よし、今日からここは『星見の塔』だ」
アンリは宣言した。
「星見の……塔?」
レンとトリシアはお互いの顔を見つめると……。
「うん!」
「それ、いい!」
パチンと手と手を打ち合わせて、ニッコリと笑った。
(おしまい)
…こうしてできた「星見の塔」。
ここからたくさんの出会いや友情が生まれていく…!