後編
そして翌日。
「それで、この子を連れて来たのですか?」
アンリはレンを連れて、アムレディア王女のもとを訪れていた。
「すっげー! あんた、本当に王女だったんだ!」
レンはアムレディアを見て、目を丸くする。
「このところ、宮廷にいる時間がずいぶんと短いとは思っていましたけど、面白いことに係わっていたようですね」
アンリからレンを弟子にしたいという話を聞いたアムレディアは、クスリと笑った。
「それで、例の塔を、修業の場として使いたいんだけど」
アンリが例の塔、と呼んだのは、王城の西側にある、地上五階、地下二階の古い塔。
かつて、『時の魔法院』として知られていた第五魔法院の廃墟である。
この数世紀、時間のはざ間に隠れていたこの塔を、アンリとアムレディアが発見し、中に入れるようになったのは、つい先日のことだ。
「構いませんよ。もともとあの塔は、太古の魔術師たちが魔法院として使っていたものでしょう? 王家のものではなく、あなたたち魔法使いのものだから」
「へえー、王女さんって意外と話が分かんのな。杖振り回して暴れてんの見た時は、がさつで、性格キツそうって思ったけど」
「……アンリ、条件がひとつ」
王女の頬がピクピクと引きつった。
「条件?」
「……その子、しばらく貸してもらえるかしら?」
「えっと……どうして?」
「ちょっとした、言葉づかいと礼儀作法のお勉強」
「げっ!」
顔をこわばらせ、さっさと退散しようとするレン。
だが。
「逃がしはしませんよ」
微笑んだアムレディアの手は、レンの腕をガッチリとつかんでいた。