後編
「なんで魔法を使わないんだよ!?」
と、あきれるレン。
「甘えた駄々っ子のお仕置きに使うものじゃないよ、魔法は」
アンリは頭を振った。
「それに、僕もたまには身体を動かしたいしね」
「どわっ!」
またひとり。
不良少年がアンリの前でつまずいてひっくり返った。
アンリは武器を持っていないし、殴りも蹴りもしない。
ただ、身をさけるだけで、相手は勝手にひっくり返るのだ。
「……つ、強えっ!」
全員が息を切らし、戦えなくなるまで、それほど時間はかからなかった。
「別に僕は何にもしてないよ。君たちが勝手に転んだだけさ」
汗さえかいていないアンリは肩をすくめる。
「てめえ!」
ひとりだけ残った親玉が、短剣を抜いた。
「君には少しばかり、きびしいお仕置きが必要なようだね」
アンリは哀れむような視線を親玉に向ける。
と、その時。
「待てよ」
レンがアンリの腕をつかんだ。
「そいつとの決着は俺がつける!」
「……分かった。ただし、勝負は公平に、だ」
アンリはうなずき、後ろに下がりながら魔旋律を唱える。
「鉄の刃よ、戦いの場から去れ……レガル」
「うわっち!」
親玉が握る短剣の刃が弾け、粉々になった。
「片方だけが武器を持つのは、卑怯だろう?」
「こんなガキ、素手でも構いやしねえ!」
親玉は、柄だけになった短剣を捨て、レンに殴りかかる。
「レン、てめえ!」
親玉のこぶしがレンの頬に命中。
さらに続けて、みぞおちにも親玉のこぶしが食い込む。
「けっ! 口ほどにもねえ!」
前屈みになったレンの背中に、組んだ両手をたたき下ろす親玉。
「!」
地面に崩れ落ちたレンは頭を振ると、チラリとアンリを見た。
アンリは腕組みをしたまま、動く気配はない。
一度手を出さないと口にしたら、最後までそれで通す気のようだ。
「……あはは、あいつ、最高だ」
ふらふらと立ち上がりながら、笑うレン。
「なに笑ってやがる!」
レンの胸倉をつかむ親分。
身長差がかなりあるので、レンは宙吊りになる。
だが。
「……今だ!」
レンは逆に親玉の襟をつかむと、そのあごに頭突きを食らわせた。
トリシアの真似をしただけだが、見事に命中。
「ぐはっ!」
意表を突かれ、のけぞる親玉。
レンはさらに、二発、三発と連続して頭突きを出す。
自分の額も痛いが、急所であるあごをねらわれた親玉のほうはもっとたまらない。
「俺は! 絶対に! お前の! 仲間には! ならない! パットもだ!」
レンは最後に一発、食らわせると、手を離して地面に下りた。
「……分かったか」
親玉は白目をむいて、仰向けにひっくり返ると、そのまま動かなくなる。
完全に気を失ったようだ。
「……今日は見逃すよ。そいつを連れて帰るんだ」
アンリは子分たちを見渡した。
「でも、次はない。これからどう生きたらいいか、よく考えるといい」
「ひぃー!」
不良少年たちは親玉をかつぎ上げると、クモの子を散らすように逃げてゆく。