半日後。
「海なんて……海なんて……」
フランチェスコは日よけのついた寝台を甲板に出し、船員に羽扇であおがせて寝込んでいた。
「大嫌いだー!」
「どうしだんだい、あれ?」
オーウェンが船員のひとりに尋ねた。
「さっきまで無駄に元気だったのに?」
「いつものことでさあ。若旦那の元気がいいのは、海に出て半日まで。あとは陸地につくまでずーっとあんな調子で寝込んでるんですよ」
船員は説明した。
「どこが海の男なんだ?」
と、オーウェン。
「やれやれだわ」
呆れ果てたフローラは額に手を当てる。
と、その時だった。
ズンッ!
船が大きく揺れて、フローラたちは海に投げ出されそうになった。
「!」
オーウェンがフローラの腕をつかみ、抱きとめる。
「浅瀬に乗り上げたの!?」
フローラは忙しく動き回る船員たちの方を見た。
「クジラにでもー、ぶつかったんでしょうかー?」
転んだパラケルススの背中にちょこんと座ったスピカが首をかしげる。
「な、なんだか分からないんですが、船が勝手に動いています!」
船長がフランチェスコに報告した。
身を乗り出して海を見ると、この貿易船が真後ろに向かって進んでいるのが分かる。
「んー、なんか、よくわかんないから適当にやっといてー」
寝台に寝たままのフランチェスコは、ひらひらと手を振った。
船酔いがひどくて、どうやらまともに考えられないようだ。