船を襲う海ヘビの話は、フローラも聞いたことがある。
だが、今の今まで、子供をおどかすための作り話か、ただの伝説だと思っていたのだ。
「あいつを船から引きはがさないと」
オーウェンは潜水艇を海蛇に近づける。
「ちょ、ちょ、ちょっと待って!」
あわててフローラは止めた。
「あの大きさ、見えてる? こんな小さな潜水艇なんか、一飲みよ、一飲み!」
確かに、牙が生えた口の幅は、この小型潜水艇の長さより長い。
「けど、このままじゃ、どこまで船が引っ張られていくか」
「それもそうだけど!」
フローラは髪をかきむしると、覚悟を決めた。
「……ああもう! こうなったら、なるようになりなさい、だわ! オーウェン、やっちゃって!」
「了解!」
オーウェンは潜水艇を海ヘビの顔の前に回り込ませ、ランプの光を海ヘビの顔に当てた。
海ヘビはもがき、尻尾で潜水艇を叩きつぶそうとする。
「!」
オーウェンはこれを避けると、また光を海ヘビの顔に当てた。
「嫌がってる!?」
海ヘビの様子を見て、フローラは目を丸くする。
「たぶん、もともと深海にいる生き物なんだ! だから、光に弱い!」
海ヘビはギザギザの歯が生えた口をカッと開くと、貿易船の舵から身体を離し、潜水艇に近づいてきた。
「こっちを狙いを変えたみたい! 逃げて!」
と、フローラ。