7
「気になったので、来てみた」
ショーンはハンカチでシャーミアンの頬の涙を拭った。
「副団長殿、僕とダンスを」
リュシアンとアーエスが演奏を始め、広間にワルツが流れ始める。
ショーンはシャーミアンの腕をつかんだまま、一礼した。
「わ、私は! ダンスはダメなんだ! レンにも注意された!」
「大丈夫。あなたは運動神経が僕よりずっといいのだから、落ち着いて僕の動きに合わせればいい」
もがくシャーミアンをリードし、ショーンは踊りだす。
「む、無理だ」
シャーミアンは逃げようとするが、ショーンは手を離さない。
「力を抜いて。そう、あとは笑顔で」
「……あうう」
仕方なくショーンに言われた通りにするシャーミアン。
多少ぎこちないが、なんとか音楽に乗って足は動く。
ショーンの方が背が低いので、ややシャーミアンが見下ろす感じになるが、慣れてくるにつれてその足取りは軽やかになってゆく。
「ショーン殿と踊っているのは?」
「確か、騎士団のシャーミアン副団長では?」
「ほう、やるものですな」
二人のダンスを見て、まわりの貴族たちが話す。
「なかなか上手いだろう? 実は、彼女にダンスを教えたのはこの僕なのだ!」
と、胸を張ったのは、髪をドミグラスソースとホイップクリームだらけにしたセドリックだ。
「みんな、賞賛の目であなたを見ている」
ショーンはダンスを続けながらシャーミアンに言った。
「ありがとう」
シャーミアンは顔を赤らめる。
「……お父上に、醜態をさらして申し訳なかったと伝えて欲しい。私の家は貴族とはいえ、貧しくてパーティなどに出る機会もなかった。やはり、こんな場には私はふさわしくないんだ」
「僕はそうは思わない」
ショーンは頭を振る。
「あなたは普通にしていれば十分すてきだ。無理をして、つまらない貴婦人どもの真似をする必要はない」
「……君は本当の騎士だな」
今夜初めて、シャーミアンの顔に笑みが浮かんだ。
「そうなりたい」
と、答えてから、ショーンはあたりに目をやって眉をひそめた。
「うちの兄どもはどこに行った? 連中の方が、シャーミアン殿と身長が釣り合うだろうに?」
「私としては、君の方がいい」
シャーミアンは小さく咳払いして続けた。
「もう少しだけ、一緒に踊ってくれないか?」
「喜んで」
曲が変わっても、二人のダンスは続き、貴族たちはそれをうっとりと見つめた。
「な、なんとかなった。よね?」
「いいところは、ショーンに持っていかれたけど」
ほっと息をついたのは、トリシアとレンである。
「あ、あのさ、僕らも踊らない?」
レンは照れくさそうにトリシアに手を差し出した。
しかし。
「そんなのあと!」
トリシアはレンのポケットにマカロンを押し込んだ。
「余ってるお菓子、持てるだけ持って帰るわよ! ほら、そっちのガレットも! フィナンシェとタルトも!」
「……やれやれ」
帰り際、二人のポケットがパンパンに膨らんでいたことは、言うまでもなかった。