8
次の朝。
シャーミアンはベッドの上で、毛布を引っかぶってうめいていた。
「シャーミアン、落ち込むんなら、騎士団本部に帰ってからにしてくれないかな?」
トリシアはドアを叩き、声をかける。
ベッドといっても、シャーミアンが今いるのは診療所の病室のベッドなのだ。
「放っておいてくれ! あーんなこともやらかしたし、こーんなこともやらかした! 思い出すだけで、自分で自分を張り倒したくなる! きっと三兄弟にからかわれる! うわあああああっ! また嫌なこと思い出したああああーっ!」
ダンゴ虫のように丸まった姿勢で、シャーミアンは叫ぶ。
「そんなこと言っても、ここ、診療所だよ!」
「普段、まじめな人ほど、失敗したときに落ち込むよなあ」
腕組みをしたレンが、トリシアの隣でうんうんと頷く。
「それじゃ、わたしがまじめじゃないみたいに聞こえるんだけど?」
振り返ったトリシアは眉をひそめた。
「その通りだろ?」
「なんですってー!?」
レンの襟首をトリシアがつかみ、締めあげようとしたその時。
「シャーミアンはここかい?」
「まったく、面倒な」
「やっほー」
プリアモンドたち、サクノス家の三兄弟が診療所に入ってきて、トリシアに尋ねた。
「貴様たち! 私の失敗を笑いにきたのか!?」
プリアモンドの声を聞いたシャーミアンがドア越しに怒鳴る。
「失敗?」
プリアモンドは首を傾げた。
「なんのことだ?」
リュシアンも眉をひそめる。
「ねねねねね、どの失敗ー? シャーミアンちゃんの失敗って、書き留めたら本になるくらいあるじゃない?」
と、瞳をキラキラさせるのは、もちろんエティエンヌだ。
「とぼけるな! 昨日のパーティで私がやらかしたことを見ていたろうが!?」
シャーミアンはまた怒鳴った。
「あれくらい、なんでもないだろう?」
プリアモンドはドアを開けて病室に入る。
「ふん。あんなことが失敗のうちに入るか」
リュシアンがフンと鼻を鳴らした。
「もっとひどい失敗、しょっちゅうしてるくせにー」
エティエンヌはリュシアンの腕をつかみ、笑い転げそうになるのをこらえる。
「私はもうダメだ! 笑い者にされ、部下の信頼も失うんだああああっ!」
シャーミアンは毛布をかぶったまま、ベッドの上を転げ回った。
「そんなことはない。君は騎士たちに信頼されてるよ」
と、プリアモンド。
「まあな」
リュシアンもうなずく。
「もとから変だって思われてるしー」
どうやら、エティエンヌだけは意見が違うようだ。
「エティエンヌ、さっきから貴様はー! 慰める気、全くないだろうっ!」
「うん」
「斬る!」
とうとうシャーミアンはとうとう、ベッドの脇に置きっぱなしだった剣に手をかけた。
「今日こそ斬る! 絶対に斬る!」
「きゃーっ!」
シャーミアンは剣を振り回しながらエティエンヌを追いかけ、病室の外へと飛び出した。
「これで復活、と。世話の焼ける副団長だよ」
プリアモンドが頭を掻く。
「トリシア、レン、迷惑をかけたな」
リュシアンは二人を振り返った。
「まあ、わたしとしては、ベッドから出てくれたからそれでいいけど?」
と、トリシア。
「あの子、ずっとがんばり続けて休みだってろくに取らないだろう? 騎士団のみんなと相談して、たまには息抜きを、と思って招待したんだけど、結果は逆効果だったみたいだ」
プリアモンドはため息をついた。
「あれは性格だ、どーにもならん」
リュシアンが首を横に振る。
「そろそろ、なだめに行ったら? エティエンヌがギッタギタにされる前に?」
薬草園のまわりで追い駆けっこを続けるシャーミアンたちを、窓越しにレンが指さした。
「ああ。ではな」
「迷惑かも知れないけれど、また何かあったら、彼女の相談に乗ってやって欲しい」
リュシアンとプリアモンドは苦笑して、戸口へと向かう。
「当然! だって、友達だもん!」
トリシアは笑顔を返して頷いた。
白天馬騎士団の副団長シャーミアン。
すべての悪人が恐れるシャーミアン。
そんなシャーミアンは、騎士団の誰もが愛する、ちょっと残念な人だった。
(おしまい)
………今回の短編、いかがでしたか?
ショーンがめずらしく(?)かっこよかったよね!
この調子でがんばって、兄たちを見返しちゃえー…って、それはムリ??