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少しして。
「トリシア団長、万歳!」
診療所の待合室では、銀ネズミ騎士団の騎士たちが勢ぞろいしてトリシアに拍手を送っていた。
ポケットに銀貨も入っているし、尊敬の目で見つめられ、まんざら悪い気分ではない。
「団長、お言葉を」
団員たちに向かって何か話すように、副団長のデュドネがうながす。
「は、話すって?」
こう見えてトリシア、人前で何かを話したり発表したりがあまり得意ではない。話ををしてるうちにだんだん横道にそれて、最初に何を話していたのかが分からなくなるのだ。
魔法学校にいた時も、古代魔法についての研究発表をしていたつもりが、いつの間にか前の晩に食べた豆料理の話になっていて、アンリ先生を困らせたことがあった。あれ以来、大勢の前での発表は、みんなレンに押しつけていたのだ。
「これからの活動方針や、団員としての心構えなどを」
コニャーズが助け船を出すようにささやく。
「そっか。……ええっと、みんな、じゃなくて団員諸君! 街の平和は君たちの肩にかかっている! 日々、自分たちをきたえ、騎士にふさわしい振る舞いを忘れず、勇敢に、そして優しく、早寝早起き、腹八分目、歯はちゃんと磨いて、掃除はさぼらず、あとは……ええっと……とにかくがんばろう!」
途中までは、白天馬騎士団のシャーミアンがいつも三兄弟に説教している言葉をまねてみたが、後半はもう、適当である。
それでも。
「おお! ありがたいお言葉だ!」
「さすが、団長!」
ネズミ騎士たちは感動し、中には涙を浮かべる者もいた。
「で、あとは何をすればいいの、団長って?」
演説がなんとかうまくいってホッとしたトリシアは、副団長のデュドネにたずねた。
「これから街の見回りに出るので、指示をお与えください。それぞれの街区を見回る者たちと、本部に残る者たちを分けていただきたい」
と、デュドネ。
「そうね……じゃあ、君と君と君、それに君は東街区で。あと、君たちは……」
トリシアは適当にネズミたちを分け、見回りに送り出した。
「団長はどうなされます? 我々に同行なされますか?」
ネズミたちが街のあちこちに散っていくと、コニャーズがトリシアを見上げて質問する。
「そうだね。わたしもついてこうかな?」
面白そうだと思ったトリシアは、デュドネやコニャーズたちと一緒に外に出た。