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「これで街の平和は守られましたね、団長!」
鳩が去るのを見送ったコニャーズが、キラキラ瞳を輝かせてトリシアを振り返る。
「だが」
デュドネが悲しそうに首を振った。
「これが最後のワイヴァーンではないだろう。王都アムリオンは、常に外敵からの脅威にさらされている。我ら騎士団の活躍なくして、街の平和はないのだ!」
「……だから、ワイヴァーンじゃないって言ってるのに」
こめかみを押さえたトリシアは、その時、こちらに向かってやってくる人影に気がついた。
正確に言うと、人ではない。車輪付きの水槽に乗った人魚のアーリンである。
「トリシア? こんな時間に何してんの?」
アーリンの方もトリシアに気がつき、水槽をこちらの方に近づけてきた。自称、『三本足のアライグマ』亭のマスコットのアーリン。バスケットを抱えているところを見ると、セルマに頼まれた出前の途中のようだ。
「……で、何? このフクロウのエサの大群は?」
アーリンはネズミたちを見て顔をしかめる。
「ちょっと聞くけど、これ、何に見える?」
トリシアはふと思いつき、アーリンを指さしてデュドネに聞いた。
「おおっ! そやつは海の怪物、クラーケン! 我ら銀ネズミ騎士団が守るアムリオンを襲うとは不届きな! 皆の者、かかれ~!」
デュドネは剣をかかげ、水槽の縁に飛び乗った。
「おお~っ!」
デュドネの号令で、ネズミ騎士たちもアーリンに飛びかかる。
「ちょっと! トリシア! 何とかしなさいよ!」
髪の毛を引っ張られて、アーリンは悲鳴を上げた。
「ご、ごめん。この子たちには、あなたがクラーケンに見えるみたいで」
めったにないことだが、トリシアは本当に済まなかったと思ってアーリンに謝る。
もっとも、その間もネズミ騎士たちの攻撃は続いている。
「クラーケンはひるんでいるぞ! ジョルジュは右手から、ドミニクは背後から攻めろ!」
デュドネの命令で動くネズミ騎士たちの動きは機敏だ。アーリンも水をバチャバチャはねさせて反撃するが、ネズミたちに退く様子はない。
「な、何がクラーケンよ、この街一番の美少女に向かって! お、覚えてなさい、この、蛇のエサども!!」
アーリンは水槽をガラガラと転がして逃げていった。