5
やがて、トリシア団長と騎士団員たちは、南街門の近くまでやってきた。
南街門は、王都の街壁に設けられた三つの街門のうち、もっとも人通りが多い門だが、昔は夜になると閉じられ、門番に声をかけないと通ることができなかった。
最近は国が平和になり警戒の必要もなくなったため、開けっ放しのことが多い。
「これで全部見回ったよね?」
さすがにもう寝ないと明日の仕事に差し支えるので、トリシアがデュドネにたずねたその時。
「だ、団長!」
前方を偵察していたコニャーズが振り返って、警告の声を発した。
「ワイヴァーンを発見! こちらにやってきます!」
「ワ、ワイヴァーン!?」
トリシアは目を丸くなる。
ワイヴァーンは森に住む小型のドラゴンで、それほど凶暴でもない。
とはいえ、ドラゴンはドラゴン。たまに農場の牛や豚を狙うことがある。
もし、街に紛れ込んだとしたら、人間の騎士団が出動しなくてはいけない大事件だ。
「邪悪なワイヴァーンめ!」
コニャーズが手招きする方に向かって、駆け出すデュドネとネズミ騎士たち。
「待って! 危ないったら!」
トリシアはあわててその後を追った。
しかし。
「…………」
トリシアは、コニャーズがワイヴァーンだと報告した生き物の姿を見た瞬間、その場に崩れ落ちていた。
「ククルクック~?」
そこにいたのは、一羽の鳩だったのだ。
「おのれ怪物め!」
ネズミ騎士たちは、木箱の上で羽を休めていた鳩を取り囲み、一斉に剣を抜いた。
「ちょっと、あれはただの鳩だってば!」
あわてて止めようとするトリシア。
「いえ、あれは邪悪なワイヴァーン! 我が輩は何度も戦った経験があります、間違いありません!」
デュドネはトリシアをかばうように鳩の前に出る。
「団長には指一本触れさせはせん! 勇敢なる騎士たちよ、突進~っ!」
デュドネの号令で、ネズミ騎士たちは鳩に襲いかかった。
だが。
ネズミたちが手にしていた剣は、松の葉っぱでできていた。つまり、刺されようが切られようが、怪我をすることはないのだ。
「くっ! なかなか手強い!」
「負けるな! 町を守るんだ~っ!」
「必殺! 銀ネズミ流星剣~っ!」
自分たちよりも二回りほど大きな鳩に、ネズミ騎士たちは挑んでいく。
「な、な、な、な、な、何よ、この子たち!」
怪我をすることはなくてもチクチクはするわけで、鳩は不愉快そうに顔をしかめる。
「ごめん! この子たち、あなたをワイヴァーンだと思っちゃってるの!」
トリシアが鳩に説明する。
「失礼ね! この美しい私のどこが、あのおぞましいワイヴァーンだっていうのよ!?」
鳩といっしょにされてはワイヴァーンの方も心外だろうが、怒った鳩はクク~ッと鼻を鳴らして飛び立っていった。