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「これより最終試験に入る!」
ここまで残った3名の受験者を前に、騎士団長が現れた。
「合格の条件は簡単だ! この私と剣を交え、10数える間立っていること!」
腕組みをして胸を張った騎士団長は、吠えるような声でレンともう2名に告げる。
「!」
「っ!」
試験を見守っていた見学者たちがざわついた。
これまで、入�団試験で騎士団長が剣を握り、直々に立ち合うことはなかったからだ。
「では、誰が一番手かな?」
騎士団長はレンたちを見渡した。
レンと残りのふたりには、新たに刃を落とした剣と盾が与えられる。
「私が」
進み出たのは一番年長、といっても18歳ぐらいに見える貴族だった。
レンに突っかかってきた連中とは別の若者で、ここまで勝ち抜いてきた自信に満ちた顔をしている。
「どんな手を使ってもいいぞ。……使えれば、魔法でもな」
騎士団長はレンの方にチラリと目をやってから、剣を肩に背負った。
どう見ても隙だらけの格好である。
「……エティエンヌ、数えろ」
「はいは~い、それじゃ、1!」
「!」
青年貴族は騎士団長に向かって突進した。
次の瞬間。
ガッ!
レンには何も見えなかった。
気がついたら、青年は地面にのびて気を失っていた。
騎士団長は剣を構える素振りすら見せず、青年を弾き飛ばしていたのだ。
「2! ……って、もう終わってるよね」
数えていたエティエンヌが、つまらなそうに肩をすくめる。
「肩慣らしもならんな」
騎士団長はつぶやき、見習い騎士が会場から運び出す青年貴族を見送ると、残りふたりとなった受験者の方を振り返る。
「つぎはどっちだ?」
「わ、わ、私は――」
青ざめた受験者がうつむいて首を横に振った。
「試験を辞退します」
見学者の間から落胆の声が上がったが、騎士団長は頷く。
「うむ。己の力量を知ることも大切よ。また次の機会に挑むがよい。では――」
騎士団長の目はレンに向けられる。
「お主はどうする? 恐れをなして逃げ出しても、誰もとがめはせんぞ」
「逃げる?」
レンは剣と盾をしっかりと握り直し、騎士団長の前に立つ。
「やっと面白くなってきたところですよ」
「ほう、さすがはアンリの弟子、といったところか」
騎士団長は目を細めた。