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「エティエンヌ!」
「はいはい、分かってますよ~! それじゃ、1!」
エティエンヌが数え始めると同時に、レンは騎士団長との距離を間合いのギリギリまで詰め、リュシアンに習った防御の姿勢を取る。
「この私に攻めてこいと? 逃げ回るという手もあるが、そうきたか」
騎士団長は嬉しそうに笑うと、大きく踏み込んで剣を降り下ろした。
「!」
真っ正面から盾でこの攻撃を受け止めたレンは、衝撃で数歩、後ずさる。
まるで電撃の攻撃魔法を食らったみたいに腕がしびれ、感覚がなくなっている。
「よくぞ止めた!」
感嘆の声を上げる騎士団長。
「2!」
エティエンヌの声が響きわたる。
「それ!」
騎士団長はもう一度、同じ攻撃をしかけた。
レンも同じように盾で防いだが、盾には大きなへこみができて、三回目の攻撃には耐えられそうにない。
(だったら!)
レンは盾を�投げ捨てた。
「盾を捨てたか」
騎士団長はなぜか満足げな表情を浮かべる。
「3!」
エティエンヌが右手をかかげ、三本の指を立てた。
「ちょっと! 数えるの遅くない!?」
ベルがエティエンヌに文句を付けている間に――。
「身軽になった分! こっちが有利!」
レンは騎士団長の盾の内側に飛び込もうとした。
「有利? 見極めが甘いな。お主が優位に立つことなど、決してない」
騎士団長の蹴りが、レンの体を弾き飛ばす。
「!」
レンは何とか空中で体を立て直し、両足で地面に着地する。
「4!」
「なぜ、魔法を使わぬ!?」
騎士団長は眉をひそめて尋ねた。
「アンリ先生だって!」
レンは騎士団長の左に回り込みながら、またも盾の内側に迫ろうとする。
「魔法を使わずに武術大会を勝ち抜いたんだ!」
「この私と対等に戦った男と肩を並べる気か!?」
「でなきゃ、僕がここにいる意味がない!」
「私の目は間違っていなかったようだな!」
騎士団長が真横に振った盾を、レンは剣で受け止めた。
まるで斧で攻撃されたような重い一撃だ。
「5!」
エティエンヌが開いた手を高く上げた。
「私がこれまで認めた戦士は3人のみ!」
騎士団長はたたみかけるように攻撃に出る。
「ひとりはアールヴの長、ファラン!」
豪雨のように叩きつけられる攻撃を受け続けたレンの剣が根本から折れた。
「6!」
見学者たちがエティエンヌと声をそろえる。
「ひとりは永遠の騎士と呼ばれた剣聖ハーレック!」
「!」
レンは剣を投げ捨て、騎士団長のふところに飛び込んだ。
「7!」
エティエンヌが右手と、左手の二本の指を空に向かって突き上げる。
「そして、最後は光の戦士アンリ!」
レンは騎士団長の腕にしがみつきながら、こぶしを突き出した。
「8!」
こぶしは騎士団長の頬をかすめる。
「レン先輩!」
「レン殿!」
「……レン!」
ベルとショーン、そしてアーエスの祈るような声がレンの耳に届いた。
「9!」
騎士団長は腕を引き寄せ、レンに頭突きを食らわせた。
レンの体は、大きな弧を描いて宙を舞う。
「10!」
エティエンヌが開いた両手を上げて見学者席を振り返る。
熱狂の声があがる中、レンは地面に落ちて意識を失った。
「……数え終わった時には、まだ空中だったな」
騎士団長は笑い、剣をシャーミアンに渡して宣言する。
「アンリの弟子、レナード! お主をこの騎士団の一員として迎え入れる!」
見学者の歓声がさらに大きくなった。