10月
第5回~まとめ(前半)~
今回と次回で、「調性の話」をまとめたいと思います。第1回で「調性感を身につけると表現力がアップ」するだけでなく、ついでに「楽典のおさらい」もできるとお話ししました。
ポイントは生徒さんへの「問いかけ」です。オリジナルの「問いかけ」集を作っていただくヒントになるように、第2~4回で「問いかけ」をいくつかご紹介してきました。今回は、これまでの内容を踏まえ、新たに曲に取り組むときの着眼点を整理したいと思います。
■着眼点を箇条書きにしよう
以下の6つが、これまでお話ししてきた調
性を感じ取るためのポイントです。
できれば箇条書きにしておきましょう。練習しているうちに、いつのまにか着眼点は埋もれてしまうものです。楽譜を広げてなんとなくピアノを弾くのではなく、ポイントを絞って曲に取り組む習慣もつけるように努力しましょう。
■順番に確認していこう
まず調号を確認します。そして過去に取り組んだことがある同じ調性の曲などと比較しながら、調性の雰囲気を一緒に感じてください。ピアノ以外の作品で、生徒さんが知っている曲を紹介できると効果的です。
次に、全体を見渡していくつかの部分に曲を区切り、各部分の最初と最後の和音進行を弾いてあげましょう。和声的に形式を把握することはとても大切です。たくさん曲をこなすうちに、典型的な終止のパターンも耳で把握できるようになるはずです。また、曲中にはクライマックスが必ずあることも教えてあげてください。
曲に慣れてきたら、各部分の最初から最後までの和音進行を感じてもらいましょう。なるべく多くの和音を、細かく捉えてもらいたいですね。
■和音を聴き分ける敏感な耳を育もう
曲に使われている音は、調性ごとにある程度決まっています。たとえば「ハ長調の音階」は、ハ長調の曲に使われる「音のまとまり」を整理したものです。それらが作り出す響きの種類や流れが和音や和音進行と呼ばれます。
つまり、和音に敏感になれば響きのストーリーがわかり、ベースにある「音のまとまり」も把握できるようになるため、取り組んでいる曲の調性を感じ取りやすくなるのです。
和音の響きを聴き分ける敏感な耳を育むことを常に念頭に置きながら、6つの着眼点をポイントにレッスンを進めてみてください。バッチリ調性感が身につくはずです。
最終回は、「問いかけ」について整理したいと思います。
黒田篤志 くろだ・あつし
1973 年生まれ。早稲田大学修士課程修了。日本アマチュアピアノコンクール7位入賞。出版社にて楽譜と書籍の編集を担当。現在小山市で、大人のピアノ教室“Lento レント” を主宰するかたわら、フリーの編集者、ピアニストとして活動中。
http://ameblo.jp/pianote0519/
8月
第4回~調号「♭2つ」~
今回は、調号「♭2つ」の変ロ長調とト短調の曲を比較しながら、調性についてお話しします。W.A.モーツァルト(1756-1791)作曲〈アレグロ〉、伝J.S.バッハ(1685-1750)〈ポロネーズ〉をとりあげます。両方ともコンパクトな3部形式の曲です。これまでに、調性の着眼点はほぼお話ししたので、復習をかねながら進めたいと思います。
■調性の特徴とピアノ以外の楽器の特性
変ロ長調の曲は柔らかい曲想のものが多いようです。♭の調性は管楽器との相性が良いため、そのやさしい響きを想定して、作曲家が調性を選んでいるからだと思われます。
一方で、ト短調の曲は厳しい曲想のものが多いようです。ヴァイオリンの解放弦にはg、d音が含まれますが、これらはト短調の主音と属音ですから、ト短調は弦楽器の鋭い響きが生かされる調性なのでしょう。
ピアノ曲だけでなくオーケストラの作品などを生徒さんに聴かせながら、「この部分はどんな感じがする?」などと問いかけてみてください。たとえば、モーツァルトの交響曲第40番K.550はト短調の典型のような曲で、変ロ長調にも転調しますから、おすすめです。
■全体のつくりと第2部のあたりに注意
全体の調性を見渡して、曲のつくりを大きく把握する習慣をつけると良いでしょう。ほとんどの場合、クライマックスは第2部にあります。そこではよく転調が起こっています。目印は臨時記号が増えることでしたね。問いかけは「このあたり、♯や♮が多いね」が効果的です。今回の曲では、〈アレグロ〉が一瞬短調に、〈ポロネーズ〉が長調に転調しています。
2部形式や3部形式の場合、第1部が転調して終わることも多いので注意しましょう。〈アレグロ〉はヘ長調に転調しています。
■和音を感じながら終止形を大切に
細部の響きになるべく耳をかたむけてもらうようにしてください。とくに典型的な終止形であるⅠ(Ⅵ)‐Ⅳ‐Ⅴ‐Ⅰのカデンツは、どんな調性の曲でも把握できるといいですね。〈アレグロ〉は第1、3部の終わり、〈ポロネーズ〉は第1、2部の終わりにあります。「それぞれの和音はどんな感じ?」と問いかけ、ポーズで表現してもらうのもおもしろいと思います。
次回は調性の話まとめ(前半)です。
6月
第3回 ~調号「♯1つ」~
今回は、調号「♯1つ」のト長調とホ短調の曲を比較しながら、調性についてお話しします。L.ケーラー(1820-1886)作曲〈わかれ〉、レオポルト・モーツァルト(1719-1787)作曲〈ブーレ〉をとりあげます。ケーラーはロマン派、レオポルト(ヴォルフガングの父)は古典派前期から中期の作曲家ですね。
■ト長調とホ短調の特徴
調性の雰囲気と楽器の特性には密接なかかわりがあります。たとえば、解放弦にg、e音を含むヴァイオリンやギターは、ト長調とホ短調だと響きやすく演奏も容易です。
レオポルトは、これらの楽器の響きをイメージして作曲したかもしれません。たとえば、「ギターっぽく弾いてみない?」と語りかけながら〈ブーレ〉を弾いてもらうのもおもしろいと思います。
■ピアノ以外の楽器の特性を踏まえよう
臨時記号が多いところは、転調の目印になります。〈アレグロ〉では6小節目から♯が登場し、一瞬、属調であるト長調に変化します。基本的に転調は♯が増える方向に進みます。
短調の場合、臨時記号は終止の目印にもなります。〈小人の踊り〉の7~8小節目と16小節目は、全終止と半終止です。全終止はⅤ-Ⅰ、半終止はⅤで区切られる終止形。「終わった感じがしない?」と問いかけてみましょう。転調や終止形に注目すると形式もわかります。〈アレグロ〉は2部形式、〈小人の踊り〉は3部形式です。各部分を対照的に表現すれば起伏に富んだ演奏ができます。
■終止形に着目しよう
どんな調性の曲を弾く場合でも、形式上の区切りになる部分の終止形をよく見るようにしましょう。〈わかれ〉は二部形式で、それぞれ2つの部分からできていますので、4~5、9~10、13~14、18~19小節目の終止形に注目します。13~14小節目だけⅣ‐Ⅰで、あとはⅤ‐Ⅰです。「ここだけ和音のつながりがちがうね」と語りかけ、響きを工夫する土台を作ってあげましょう。〈ブーレ〉も同じように比較してみてください。
■3段目あたりの調性に着目しよう
音楽には「起承転結」の型があるのが一般的です。4段の曲ならば3段目あたりにドラマが待っていて、そこでは転調がしばしば起こります。とくに短調の場合は、平行調の長調に転調することが多いのです。〈ブーレ〉は9~10小節目がト長調に転調しています。「ホッとする感じに一瞬だけ変わった気がしない?」などの問いかけで、真逆である長調の場面に変わったことをしっかり感じてもらいましょう。
次回は調号「♭2つ」の曲を使って、調性のお話をします。
5月
第3回 ~調号「♯1つ」~
今回は、調号「♯1つ」のト長調とホ短調の曲を比較しながら、調性についてお話しします。L.ケーラー(1820-1886)作曲〈わかれ〉、レオポルト・モーツァルト(1719-1787)作曲〈ブーレ〉をとりあげます。ケーラーはロマン派、レオポルト(ヴォルフガングの父)は古典派前期から中期の作曲家ですね。
■ト長調とホ短調の特徴
調性の雰囲気と楽器の特性には密接なかかわりがあります。たとえば、解放弦にg、e音を含むヴァイオリンやギターは、ト長調とホ短調だと響きやすく演奏も容易です。
レオポルトは、これらの楽器の響きをイメージして作曲したかもしれません。たとえば、「ギターっぽく弾いてみない?」と語りかけながら〈ブーレ〉を弾いてもらうのもおもしろいと思います。
■ピアノ以外の楽器の特性を踏まえよう
臨時記号が多いところは、転調の目印になります。〈アレグロ〉では6小節目から♯が登場し、一瞬、属調であるト長調に変化します。基本的に転調は♯が増える方向に進みます。
短調の場合、臨時記号は終止の目印にもなります。〈小人の踊り〉の7~8小節目と16小節目は、全終止と半終止です。全終止はⅤ-Ⅰ、半終止はⅤで区切られる終止形。「終わった感じがしない?」と問いかけてみましょう。転調や終止形に注目すると形式もわかります。〈アレグロ〉は2部形式、〈小人の踊り〉は3部形式です。各部分を対照的に表現すれば起伏に富んだ演奏ができます。
■終止形に着目しよう
どんな調性の曲を弾く場合でも、形式上の区切りになる部分の終止形をよく見るようにしましょう。〈わかれ〉は二部形式で、それぞれ2つの部分からできていますので、4~5、9~10、13~14、18~19小節目の終止形に注目します。13~14小節目だけⅣ‐Ⅰで、あとはⅤ‐Ⅰです。「ここだけ和音のつながりがちがうね」と語りかけ、響きを工夫する土台を作ってあげましょう。〈ブーレ〉も同じように比較してみてください。
■3段目あたりの調性に着目しよう
音楽には「起承転結」の型があるのが一般的です。4段の曲ならば3段目あたりにドラマが待っていて、そこでは転調がしばしば起こります。とくに短調の場合は、平行調の長調に転調することが多いのです。〈ブーレ〉は9~10小節目がト長調に転調しています。「ホッとする感じに一瞬だけ変わった気がしない?」などの問いかけで、真逆である長調の場面に変わったことをしっかり感じてもらいましょう。
次回は調号「♭2つ」の曲を使って、調性のお話をします。
4月
第2回 ~調号なし~
今回は、調号のつかないハ長調とイ短調の曲を比較しながら、調性についてお話したいと思います。G.テレマン(1681-1767)作曲〈アレグロ〉、A.ディアベリ(1781-1858)作曲〈小人の踊り〉をとりあげます。テレマンはバロック時代、ディアベリは古典派後期からロマン派前期にかけて活躍した作曲家です。
■ハ長調とイ短調の特徴
バロック時代から古典派までは、調号の多い曲があまりありません。またハ長調やイ短調は、一般的にあまり複雑な音楽を感じさせませんし、臨時記号がつく音だけ黒鍵を使えばよいので、弾きやすいと思います。まず、「なにもついていないね」と語りかけながら一緒に調号を確認し、「♯、♭はどこにあるかな」と問いかけて、臨時記号のついている音も探してみましょう。
■臨時記号に注目!
臨時記号が多いところは、転調の目印になります。〈アレグロ〉では6小節目から♯が登場し、一瞬、属調であるト長調に変化します。基本的に転調は♯が増える方向に進みます。
短調の場合、臨時記号は終止の目印にもなります。〈小人の踊り〉の7~8小節目と16小節目は、全終止と半終止です。全終止はⅤ-Ⅰ、半終止はⅤで区切られる終止形。「終わった感じがしない?」と問いかけてみましょう。転調や終止形に注目すると形式もわかります。〈アレグロ〉は2部形式、〈小人の踊り〉は3部形式です。各部分を対照的に表現すれば起伏に富んだ演奏ができます。
■楽典のおさらいはついでに
転調の基本ルールは「五度圏」です。主音は「ド-ソ-レ-ラ-ミ-シ」の順番になります。
終止は、ほかにⅤ-Ⅵの偽終止、Ⅳ-Ⅰの変終止があります。ついでに復習し「4つの終止形」をよく覚えてください。短音階には「自然」「和声」「旋律」の3つがありましたね。♯がつくのは、主音のひとつ下の音を半音上げて導音にするから。Ⅴの和音があるところには導音が必要なので、終止の部分に♯が増えるというわけです。
曲を弾いていて「転調」「終止」「短音階」など気になることが出てきたら、辞典や理論書で調べましょう。なにかのついでにサクッとやるのが勉強のコツです。>
■細かく和音を感じよう
〈アレグロ〉の第1部はⅠ-Ⅳ-Ⅰ-Ⅴ-Ⅰです。基本の3和音が登場するので安定感がありますね。第2部からはⅤ-Ⅰが2小節ごとに繰り返されます。「少しずつ迫ってくる感じがしない?」などの問いかけで、からはじめて盛り上げていく演奏を促しましょう。
〈小人の踊り〉の第1、2部には、Ⅳ-Ⅰが2回登場したあとⅤ-Ⅰが続く部分があります。第2部は平行調のハ長調に転調しているのに、和音の流れは同じになっているのです。和音がわからなくても構わないので、「違う音だけど同じようなリズムを感じない?」と問いかけてみてください。和音の流れのなかに特徴的なリズムを感じることができると、躍動感のある演奏になります。和音の流れが作り出すリズムを「和声リズム」といいます。
次回は調号♯ひとつの曲を使って、調性のお話をします。
3月
第1回 ~調性感を身につけよう!~
調性ってなんだかむずかしいと思いませんか?曲のタイトルにハ長調などと書かれている理由がわからない、♯や♭がたくさんあると譜読みが大変で弾きにくい、どこから転調しているのかわからない、生徒さんにうまく説明できない……。悩みはつきませんが、「もう少し調性を詳しく知って指導に生かしたい」という方も多いと思います。そこで今回から6回、調性感を身につける「メリット」、身につけるための「簡単な理論」、身につけさせるための「指導のポイント」の3つの視点で、ピアノ演奏やレッスンに役立つ調性のお話をしたいと思います。
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