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「あの、私は何をすれば?」
ヴィクトルが自分の仕事に戻っていくと、シャーミアンは三人にたずねた。
「従者は言われなくても、自分で仕事を見つけてくるものだ」
リュシアンはそっけない。
「逆に聞くけど、白天馬騎士団の仕事ってなんだと思ってるの、シャーミアンちゃんは?」
エティエンヌがシャーミアンの手を取った。
「シャーミアンちゃんって呼ぶな! 私の方が年上だ!」
その手を振りほどくシャーミアン。
「でも、君、従者。僕たち、騎士」
「うぐぐぐっ!」
従者は騎士に従うもの。
シャーミアンはギリギリと奥歯をかみしめる。
「さっきの質問に答えてよ」
エティエンヌは急かす。
「……せ、戦争があれば戦場で戦うことだが……王族の警護、とかだろう……と思う」
ちょっと考え込んでからシャーミアンは答えるが、自信はない。
「はずれ~。それは~、もっと立派な騎士団のお仕事」
と、エティエンヌ。
「うちの騎士団に回ってくるのは、街の見回りの仕事ぐらいだな」
プリアモンドがうなずく。
「あとは、もうず~っと訓練だね~。他にやることないし~」
頭の後ろで手を組んで、エティエンヌは笑う。
「他にやることがない? 白天馬騎士団は、歴史ある、誇り高き騎士団ではないのか!?」
がく然とするシャーミアン。
「それは、遠いとお~い昔のお話」
エティエンヌは、チッチと指を振った。
「今では、身分の高い貴族の子弟はみな、他の騎士団に入る」
吐き捨てるように言ったのはリュシアンだった。
「王国を支配しているデュリエ大公と手を結び、民を力で押さえつけている騎士団にな」
「うちの騎士団は人気ないんだよね~、貧しい人たちに嫌がらせする不良貴族を取り締まったりするから。ここ数年、入団希望者は減る一方でさあ」
「まさか……私が試験に受かったのは……人手不足のせい?」
シャーミアンは、目の前が真っ暗になったような気がした。
「当然、そうだろう?」
「だったりして?」
顔を見合わせる、リュシアンとエティエンヌ。
「……では、普通ならまた落ちていたということ……か?」
あんなに頑張ったのに。
私の力なんて、そんなものなのか……。
全身の力が抜ける。
あまりにも自分が情けなく、ひとりだったら泣き出しているところだ。
「さすがにそれはないと、思うよ」
プリアモンドはシャーミアンをなぐさめるように声をかけると、馬の体をていねいにふいて、鞍を乗せた。
「おい、リュシアン、エティエンヌ。話している間に、そろそろ南街区の見回りに行く時間だぞ」
「お前ひとりでいいだろう? ゾロゾロくっついていくのは性に合わん」
とたんにリュシアンは竪琴を手にし、磨き始める。
「僕も確か、何か用があったような気が~」
エティエンヌも目をそらした。
「……貴様ら、少しは兄の手助けをしようとは思わないのか?」
「思わん」
「だよね~。あっ、そうだ!」
エティエンヌは何か思いついたように、シャーミアンの腕を握った。
「せっかくだから、このシャーミアンちゃんを連れてったら?」
「え?」
まだ立ち直れないシャーミアンは、ぼんやりとプリアモンドを見る。
「では、ついてきて」
プリアモンドはひらりと馬にまたがった。
「は、はい」
理由はどうあれ、とにかく従者になったんだ。
シャーミアンは自分にそう言い聞かせ、馬を進ませるプリアモンドの後を追った。